カルチャー
a History of Horror Films ’60s(2/2)/文・福田安佐子
そぞろ歩くゾンビの夜明け。
2021年8月17日
その後も、ロメロのゾンビ映画は、社会批評を繰り返しています。『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(2007)には、SNSやYouTubeへの言及がありましたし、遺作『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(2009)のラストでは、ゾンビと人間の共存の可能性が示唆されます。もっと続編を作ってほしかったですね。
それはともかく、『NOTLD』以後、ロメロにオマージュを捧げたようなゾンビ映画が数多く作られましたが、2002年、『バイオハザード』(2002)、『28日後…』(2002)によってそのゾンビ像が一新されます。ロメロのゾンビといえばのろのろ歩きが特徴ですが、この2作のゾンビはめちゃくちゃ速く走る。これによって、アクション映画のような臨場感溢れるゾンビ映画が増えていきます。
また、この2作の新しさは、ゾンビになる原因がウイルスだと明確に打ち出していること。なので、一度死んで生き返るのではなく、発症したらそのままゾンビ化する。死の契機がないんです。それまでもウイルス性ゾンビはいましたが、この2作のあとは、その傾向が顕著になっていきます。これは同時代のHIVやエボラの脅威の反映かもしれません。
そうしたウイルス性ゾンビ映画の中で、個人的に推しているのが、『ワールド・ウォー Z』(2013)です。まず、ゾンビのウイルスに感染して発症すると、人間の形をしつつも、ウイルスそのものとして、新たな種として行動を始める、という設定が、ウイルスに対する知見を反映していてとても新しい。また、ゾンビは周りに食料としての人間がいなくなったときどうなるのか? という問題ともしっかり向き合っている。『28日後…』では餓死してしまうのですが、本作ではまた違うアプローチを取っています。虫のなかには餌が周りにないとき、休眠状態に入り、餌が近づいてくるとまた動きだすものがいます。そうやって生き延びる習性があるんですが、本作のゾンビにはそれが適用されている。残念ながら一般的な評価はあんまり高くない作品ですが、ぜひその辺に注目して観てほしいです。
先ほど2000年代のゾンビ映画ブームは、HIVやエボラの脅威の反映だと言いましたが、じゃあ、コロナ後にまたブームはやってくるのでしょうか。たしかにウイルスの流行という意味では状況は似ていますが、前者が一部の人にとっての脅威であるのに対し、コロナはすべての人類の身近な脅威。これをうまくゾンビ映画に反映できるのか。個人的には難しいと思うけど、すごいものを期待しています。
プロフィール
福田安佐子
ふくだ・あさこ|国際ファッション専門職大学国際ファッション学部助教。1988年、兵庫県生まれ。専門はホラー映画史、表象文化論、身体論。おもな論文に「ゾンビ映画史再考」など。共訳書に『ゾンビの小哲学』『ポストヒューマン』。
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