カルチャー
今この時代に観られたことを言祝ぎたくなる3作。
6月はこんな映画を観ようかな。
2025年6月2日
text: Keisuke Kagiwada
『メガロポリス』
フランシス・フォード・コッポラ(監)
親父コッポラが巨額の私財を投じて完成させたこの壮大な”自主映画”は、戸惑いを通り越して恐れ慄くしかない傑作だ。何に一番似ているかといえば、万博かもしれない。実際、近未来都市ニューローマを舞台に描かれるのは、建築家カエサルが、利権を貪る市長キケロと対立しながらも、その娘と恋仲になったりしつつ、ユートピアを立ち上げようと奮闘する姿……なのだが、彼が目指すのは、20世紀に人類が夢見ながらついに実現できなかった、そして今はもう誰も現れるとは信じていない、昔懐かしい未来(レトロフューチャー)なのだから。批評家のフレドリック・ジェイムソンは、 未来のユートピアについての実現可能な青写真を提示することではなく、ユートピアを想像する試みの絶えざる失敗を通して私たち自身が生きる現代社会が囚われた閉域を逆照射することにこそ、SFの使命があるという。その意味において、真に偉大なSF映画であることは間違いない。6月20日より公開。
『We Live in Time この時を生きて』
ジョン・クローリー(監)
離婚して失意のどん底にいるトビアスと、気鋭の料理人のアルムートが、”衝撃的なアクシデント”を通して出会い、紆余曲折を経て恋に落ちる。しかし、幸せな時間は長続きせず、アルムートは病に侵される。よくある”難病モノ”だと早合点してはならない。アルムートがバイセクシャルだったり、新機軸をいろいろ打ち出している。そして何より、トビアスを演じるアンドリュー・ガーフィールドの顔! 常に笑っているのか泣いているのかわからない彼の素晴らしい表情が、本作に忘れがたい印象を添えている。例えば、ホアキン・フェニックスやケイシー・アフレックだったら、押し付けがましくて胃もたれしただろう。ガーフィールドはギリギリその手前に踏みとどまり、『天下一品』でいえば”こっさり”な感情表現に徹している。今の映画には、このガーフィールドの顔こそが必要だ。6月6日より公開。
『フォーチュンクッキー』
ババク・ジャラリ(監)
フォーチュンクッキーとは、アメリカの中華料理屋によくある、メッセージ入りクッキーのこと。本作が「初期ジャームッシュ的」と表現されそうな、モノクロのデッドバンコメディ調でオフビートに描くのは、カリフォルニア州フリーモントにあるその製造工場で働く、アフガニスタン移民女性の物語だ。母国で米軍の通訳をしていた彼女は、亡命のような形でアメリカへ渡ってきたらしく、その経験のせいで不眠に陥り、精神科に通院している。しかし、いくらでもシリアスにできるこのバックボーンは、安易に大文字の社会問題に接続されることはない。むしろ、それを日常と受け止めるしかない彼女の諦念に寄り添う。そこが素晴らしい。基本的には三脚に固定されたカメラがときどき震えるように振動するとき、何が映り何が映らないのか。本作を理解する鍵は、たぶんそこにある。6月27日より公開。
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