ライフスタイル

私のいえは、東京 山のうえ Vol.44

社本真里の隔週日記: 引っ越し2

2023年12月27日

photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki

 今からちょうど50年前、ジローさんとヨシコさんは檜原村に引っ越した。教員として檜原村の小学校に赴任となったジローさんは檜原村の教員住宅に住むことになったから。それまで2人はジローさんの実家のある目黒に暮らしていた。

 引っ越しの日、車には沢山の荷物とヨシコさんと、1歳になる息子が乗り、ジローさんが運転をした。ヨシコさんはその日風邪を引き高熱を出していたらしく、座席に横たわりながら、目が覚めた時には窓から青い空と木々しか見えなかった。私はどんなところに連れて来られたのかしらと思ったのよ、と50年も前の引っ越しの日の話を昨日のことのように話す。もう軽く10回くらいは聞いている。(当時、若者の移住は大きな話題となり新聞にも掲載されたそうだ)

当時車に揺られてきたジローさんとヨシコさんの息子さん(引っ越してもう50年なので、今年で51歳だそうだ)からいきなり「あげるよ」と渡されたウクレレ。みんな気にかけてくれてありがたい。

 私が引っ越すことを決め2人に話したとき、頭の中では上手に話せる想像はついていたけど、2人を目の前にすると案の定涙が止まらなかった。ジローさんは鼻ををすする私を見てティッシュを差し出し、ヨシコさんはそんな私をみて笑いながら、私なんてそんな考える暇なんてなかったわよ! と言う。そしてまたこのお決まりの話をしてくれた。ジローさんはその様子を見ながら静かにうなづき、机に溜まったティッシュをゴミ箱に捨ててくれた。

小屋の床に仰向けに寝っ転がって、もみじの緑のかぶさったベランダの軒裏を見るのが好きだった。小屋が出来てきた時のワクワク感を思い出すから。