今年はお盆に台風が来た。私は街のアパートの窓から空を眺めながら、2019年台風19号のときのことを思い出していた。

当時、檜原村はどの集落も近くの自治会館などに避難指示が出され、各所で土砂崩れや川の氾濫による通行止めになった。川沿いに住む友人の家は、1階の家財道具を全て2階に上げたと話していた。(幸いにも浸水はしなかった)私の住む集落は川から少し離れた山の上にあるので、大雨の中移動することより家での待機が一番安全だろうということになった。
横殴りの雨がずいぶん続いて、小屋は東西の窓が雨漏りした。東西の窓は開閉のできない窓なのだが、手作りの家なのでガラスの周りにパッキンなどを施しているわけでもなく、その隙間から滝のように水が流れてきていた。タオルをあるだけ床に敷き詰めて水を吸い取りながら、キッチンの流しで水が滴るタオルを絞り続けた。風が吹き付けると窓がガタガタと聞いたこともないような大きな音を立てるので、ジローさんにインパクトを借りて窓枠を何箇所かビスでとめた。避難どころかこの家を守らきゃ、とある意味必死だった。不安な気持ちももちろんあったけど、近所にみんなが居ることがとても心強かった。

街のアパートは、コンクリート造だ。このくらいの台風にはもちろんビクともしない。雨風の音がうるさくて寝れないこともない。雨漏りもない。なんて平和なんだ、ありがたいと思いながら、あの日のことが少し愛おしい気持ちになる。今日の晩、パートナーとの夕飯の話題は今後大きな自然災害にあったらわたし達はどう行動するのか、だった。
プロフィール
社本真里
しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。