ライフスタイル

私のいえは、東京 山のうえ Vol.42

社本真里の隔週日記: お掃除の人

2023年10月16日

photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki

  三連休をつかって、熊本・阿蘇に行ってきた。山は山でも活火山であること、カルデラ内には牧草地が広がっていて、元々あった私の山というイメージが一瞬で吹き飛んでいった。

阿蘇
阿蘇、空が広く雄大だった。牧草地には牛が放牧されていた。

 ある日、アパートの廊下からほうきを掃く音が聞こえてきた。キッチンの窓から廊下を覗くと、見知らぬ女性が落ち葉やゴミを集めている。別の日、地下の自転車置き場にある倉庫に掃除道具を片付けている同じ女性の姿があった。その女性はアパートの共有部をとても念入りに掃除してくれていた。そのお陰で廊下にはゴミひとつないし、自転車もいつも綺麗に整列している。私たちは家賃を払っているから不思議なことではないのかもしれない。アパートは借りものなので自分たちの所有ではないし、他の人も一緒に住んでいる。その生活の中で、共有部分は大家さんの方で管理するというのは合理的だし、私たちもそのおかげでとても気持ちよく暮らせている。

掃除
毎年5月末には、一斉清掃の日が設けられている。掻き取った土は山に戻す。

 昔、集落に住むおばあちゃんと一緒に畑仕事をしていた時、自分の家の土地でなかったとしても周りの草刈は、他の誰かが通る道だから綺麗にしておくと気持ちがいいだろう? と話をしてくれたことがある。雪が積もれば、家の前だけでなく車が走れる道路まで雪かきをする。年に一度、集落の人が皆集まって、ジョレンを使って道ぎわに溜まった土を掻く日がある。どれも義務ではないけれど、互いに気持ちよく暮らす為の心配りみたいなものが、当たり前のようにある。

 そういう意味で、アパートの生活はとても楽だ。と同時にどこまでが自分の生活なのかとも考える。集落での生活が魅力的で面白く、そして時にむずかしいと感じるのは、自分や周りの人と自分たちの生活をつくっているからなんだと思った。

プロフィール

社本真里

しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。