カルチャー

机の上のサイエンス。Vol.64

冬虫夏草

2026年11月3日

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机の上のサイエンス。


photo: Akira Yamaguchi
text & edit: Shogo Kawabata 
2026年11月 955号初出

生きたままカメムシを乗っ取る、冬虫夏草。

写真はカメムシの体から子実体を伸ばしたカメムシタケの標本。山形県鶴岡市産。カメムシ類だけを宿主とする種で、宿主の姿をほぼそのまま残しながら頭胸部の隙間から一本の棒状の子実体が突き出しているのがわかる。(花滝 www.cogazo.com)

 冬虫夏草とは、昆虫やクモなどの体に寄生し、宿主を殺して養分にしながら子実体(棒状の繁殖器官)を伸ばすキノコの総称だ。冬は虫の姿で過ごし、夏になると草のような子実体を生やすように見えることからこの名がついた。世界には数百種、日本国内だけでも400種以上が知られ、宿主となる昆虫の種類ごとに異なる菌がいる。

 カメムシタケは、その数ある冬虫夏草の中でもカメムシ類だけに寄生する一種で、身近な雑木林でも比較的よく見つかる。菌は生きているカメムシの外皮を分解しながら突き破って侵入し、体液の中で増殖を始める。宿主はしばらくの間、乗っ取られていることに気づかないまま普段どおりの生活を送る。

 カメムシが死に至ると、菌はようやく体の外へ向けて菌糸を伸ばし、頭部や胸部の隙間から棒状の子実体を突き出す。子実体の内部には無数の胞子が詰まっており、成熟すると先端から胞子を放出して次の宿主へ感染を広げていく。

 子実体が縦横無尽に伸びる、こうした異形の造形美を引き立てているのが、「ダブルピン」と呼ばれる特殊針。ヨーロッパの昆虫コレクションで稀に見られるアーム状の張り出しが付くものだ。大きな突起物があるなど、重心が取りづらい標本に用いられる。このピンが、冬虫夏草の摩訶不思議な生態を、より魅力的に見せてくれている。