カルチャー

机の上のサイエンス。Vol.11

チョーク

2022年5月3日

text & edit: Shogo Kawabata
photo: Akira Yamaguchi
2022年5月 901号初出

数々の歴史的な証明は、このチョークから生まれた。

羽衣チョーク

 膨大な量の数式を黒板へ書き連ねながら思考を巡らせていく数学者たちにとって、チョークの書き心地は死活問題だ。そんな世界中の数学者たちに熱烈に支持されたのが日本の「羽衣チョーク」。炭酸カルシウムを主な原料としたこのチョークは、書き心地が非常になめらかながら折れづらく、数学のノーベル賞といわれているフィールズ賞の受賞者の多くも愛用者だった。しかし、2014年、製造元の羽衣文具が廃業する、というニュースが流れ、数学界は「チョーク・アポカリプス!」だと騒然となる。アメリカの数学者たちは、一生分の羽衣チョークを確保しようと、約200人が集まり、1t分のチョークを共同購入したほどだ。そんな中、韓国の塾講師が一念発起し、私財をすべてなげうって羽衣チョークを製造するための設備をまるごと買い取り、その存続に挑戦。韓国には新たな生産ラインが作られ、羽衣文具の元技術者から指導を受けるなどしながら「羽衣チョーク」は見事に復活し、現在も数学者たちの挑戦を支えている。

インフォメーション

羽衣チョーク

手に取ると、グッと詰まった硬さと重さを感じ、一般的なチョークとは異なる感触。書き味も非常になめらかだ。現在の製造元は韓国のセジョンモール。

Official Website
http://en.sejongmall.co.kr