カルチャー

世界各地の人々の暮らしに想いを馳せる3作。

7月はこんな映画を観ようかな。

2026年7月1日

『春樹』
チャン・リュル(監)

 主人公の春樹は四川省成都出身の女優だ。しかし、長いこと標準中国語で生きてきたため、成都語は喋れない。決まりかけていた映画への出演も、それが判明してたち消えになってしまった。人生に行き詰まりを感じる彼女は、数十年ぶりに成都に帰還し、かつての演技の先生、「国民的な女優になるなら標準語で喋るべし」という考え方の持ち主であり、つまりは春樹の成都語を奪った張本人と再会する。言語によって故郷を喪失した春樹が、先生やその息子らと時間を過ごす中で、言語とはまた別の仕方でそれを取り戻していく姿には、静謐な感動を禁じ得ない。7月3日よりシネスイッチ銀座にて公開。同じくチャン・リュル監督の『ルオムの黄昏』も同時公開。

『よき谷の物語』
ホセ・ルイス・ゲリン(監)

Orfeo Iluso – Perspective Films – 3CAT – Los Ilusos Films – Los Films de Orfeo © 2025

 スペインのバルセロナ郊外にあるバルボナ地区。都会のほど近くにありながら、風光明媚なその“よき谷”で、実際に暮らす人々を捉えたドキュメンタリーだ。一見すると牧歌的な佇まいの彼ら彼女らだが、その口から語られる話は、移民、世代、人種、ジェントリフィケーションをめぐる、様々な対立も浮き彫りにするだろう。その意味で、社会の縮図のような場所ではあるが、単に問題提起的な社会派ドキュメンタリーと思ったら大間違い。「ここで映画を撮るなら西部劇がいい」とつぶやき、映画にまつわる本質的なアイデアすら提案する老人、そして彼のために用意されたまさに西部劇的なシーンは、本作があくまでシネマであることを高らかに証明している。7月3日より全国順次公開。

『また会えるよね』
ギヨーム・ブラック(監)

© bathysphere productions – 2024

 南フランスの寄宿学校を舞台に、卒業を間近に控えた高校生たちの日常を追ったドキュメンタリーだ。親との関係や将来の進路に悩む一方、宿舎での馬鹿騒ぎ、川遊びやハイキング、そしてレイヴパーティで日々を楽しむティーンたちを、まるで物言わぬ父親のように優しく見つめる監督の眼差しが素晴らしい。かけがえのないそんな時間が描かれるほど、迫り来る別れの気配も切実に感じられてくるわけだが、いたずらに感傷的にしない姿勢にも好感を持った。映画は100分がちょうどいいと信じる者として、「映画は2時間の〇〇」的な大喜利を聞くたび、密かにうんざりしてきた。しかし、本作はたった64分。その中にここまで充実した時間を真空パックしてしまった本作には、ひたすら驚くしかない。7月18日より全国順次公開。