カルチャー

机の上のサイエンス。Vol.56

フナクイムシ

2026年2月3日

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机の上のサイエンス。


photo: Akira Yamaguchi
text & edit: Shogo Kawabata 
special thanks: Soki Idenaga, Takefumi Itoh, Hisashi Miyafuji
2026年2月 946号初出

トンネル掘削機にも影響を与えた二枚貝。

フナクイムシの貝殻。台風の後などに海岸に流れ着いた流木を乾燥する前に採集すると、見つけることができる。

 フナクイムシは名前に「ムシ」とあるが、実際には二枚貝の仲間だ。貝殻は一般的な貝のような扇形ではなく、鋭い刃のように進化しており、長いチューブ状の体の先端に付いている。この貝殻が木材を削る道具となり、フナクイムシは海中に沈んだ木材を掘り進んで中へと入り、食い進む。まるで削岩機のように木を食べながら生きる特異な生態を持つ貝なのだ。自らの食痕は、身を守ってくれる巣になり、その中で一生を過ごす。木造の船や橋なども短期間でボロボロにしてしまうことから、人間にとっては古くから「海の害虫」として恐れられてきた存在だ。かつて、コロンブスは4隻の船で航海を始め、そのうち2隻をフナクイムシの食害によって航行不能に追い込まれたり、オランダの木造堤防がフナクイムシによって壊滅的な被害を受け、石造りの堤防に替わるきっかけとなったりと、その猛威を物語る逸話には事欠かない。フナクイムシに対する当時の恐怖は相当だったであろう。一方で、その掘削能力の高さは工学的にも注目されてきた。フナクイムシの貝殻の形状と動きは、トンネル掘削機のカッターヘッドの設計に生かされている。このほんの2〜3㎜の小さな貝殻が木材に対して無駄のない擦過運動で円筒状の穴を開けていくその仕組みは、人間の生活に大きな影響を与えているのだ。