ライフスタイル

周りに導かれ、軽やかに応える。 “生きがいの種”を蒔きながら、 唯一無二のパフォーマンスを届ける。

アオイヤマダ/これが僕の仕事。

2026年9月3日

これが僕の仕事。


photo: Naoto Date
text: Ryoma Uchida
special thanks: moire HOTEL YOSHIWARA
2026年9月 953号初出

 まるで雷を受けたかのような、忘れ難い衝撃。思春期の多感な時期に摂取した作品が、その後の人生に大きく影響することがある。その作品を一度経験してからというもの、自分の一生が永遠に変わってしまうような予感。僕にとってのそれは中学生の頃に触れた寺山修司作品だった。『書を捨てよ、町へ出よう』を筆頭に挑発的で、美的で、詩的な言葉を自在に操る書籍。おどろおどろしくて情感溢れる映像作品。あるときは新宿の小さなテントで、あるときは市街地で。様々な人物たちがとびきりのパフォーマンスを披露する。劇作家、詩人、映画監督、日本のアングラ演劇シーンを牽引した前衛作家だ。生まれた頃にはとうに寺山修司が亡くなった後だったから、その作品を生で見ることは叶わなかった。しかし、東京・吉原のデザインホテル「moire HOTEL YOSHIWARA」で開催された東京QQQ(トーキョーサンキュウ)によるオープン4周年を記念したパフォーマンスイベント『東京QQQ モアレにQQQ』を見たとき、アンダーグラウンドカルチャーに衝撃を受けた、当時の気持ちが蘇ってきた。ホテル全体の空間を使って、観客を巻き込むゲリラ的演出、ドラァグクイーン、車椅子パフォーマー、ポールダンサーなど、バックグラウンドの異なる8人のメンバーそれぞれの生き様が全身で表現された、アバンギャルドで自由なパフォーマンス。日本のアンダーグラウンドシーンで脈々と受け継がれてきた気高い精神性がここに宿っていることを感じ、その迫力がビリビリと全身に帯電するような衝撃に包まれた。だから、メンバーの一人でもあるアオイヤマダさんが今回のインタビューで学生時代に影響を受けた映画の一本として寺山修司の『田園に死す』を挙げたことに驚きつつも納得した。

 2000年生まれのアオイさん。東京2020オリンピック閉会式での独創的なパフォーマンス、サカナクションなどのMVへの出演、モデルとして雑誌の表紙を飾ることもあれば、アーティストグループ・ダムタイプや劇作家・岡田利規の作品、映画『PERFECT DAYS』『炎上』などの話題作にも出演し、テレビ番組のナレーションの仕事もこなす。見るものを惹きつける圧倒的な存在感と表現力。身体でのパフォーマンスを通したその活動は、この数年をみても多岐にわたる。

「寺山作品も人から教えてもらったのですが、振り返ってみると、いろんな仕事にしろ、自分の好きなことにしろ、周りから言われて気づくことで自分の扉が開いたことが多かったんです。実はこの取材のお話をいただいたとき、お受けするかかなり迷いました。私は自分の好きなことをして、ごはんを食べて生きてこれているのが、今でもずっと不思議というか。自分から何かをしたというより、周りの人に気づかせてもらい、助けてもらったことのほうが多い。何のお手本にもならないだろうなって思っていたんです。でも“パフォーマンス”って趣味じゃなくて仕事になるんだと希望になったらいいなと思って。将来のことって一人で考え込んでしまうけど、誰かが導いてくれて、それが何かに繋がることも多い。もしかしたら記事を読んで、誰かが何かを得てくれることもあるかもしれない」

踊っているときの楽しさについて、アオイさん曰く「身体を動かして、魂と一個になってる時間がすごく好きなんです。国籍も性別も見た目も今いる場所からも解放される。七夕に開催した東京QQQの公演の際はそのテーマと合致するように“笹”になっていました(笑)。人間であることからも離れられるというか」。秋にはベルリン公演も控える東京QQQの制作や進行にはアオイさんも大きく関わる。

 華々しく思える仕事の遍歴や堂々たる舞台での表現とは裏腹に、その言葉を「合ってるかな」と考えながら真摯に取材に応えようとするアオイさんの姿が印象的だった。幼少期に始めたダンスも、人から言われたことから始まった。

「ファッションと絵を描くことが好きな子供でした。そもそも人見知りもすごかったし、周りとちょっと馴染めない感じもあった。そんなときに母から『やってみたら?』と言われて始めたダンスがとても楽しかったんです。みんなと同じスタジオで踊るんだけれど、踊っている間は自分の中に入り込める。世界が自分だけになる感覚。性格的にもすごく合っていたんですよね」

自分だけの道を開拓するため
信じた直感と、他人の言葉。

 ダンスを専門的に学べる高校へと、進学を機に東京へ上京をすることに。寮生活と並行して、追われるような日々を過ごした。

「午前中は数学や国語などの座学。午後はダンスのレッスンが2本。月曜日はヒップホップとバレエ。次の日はポップスとジャズ、みたいに1週間で全ジャンルのダンスをやるんです。定期的にテストもあって、その評価ももらえる奨学金に影響があるため、とにかく頑張ってました。でも、当時習っていたダンスは現在とは全然違います。鏡の前に先生がいて、決まった振付を踊って点数をつけられる。それは好きではあったんですけど、先生に評価されなければ自分の居場所がないような閉塞感も同時に感じて。ダンスは好きなはずなのに、“これじゃない”感覚があって悩んでいました」

 その頃に知ったのが寺山修司や前衛舞踊の「舞踏」、山口小夜子、ダムタイプなど、身体表現と芸術とを結びつける先人たちの作品だった。

「作り方はわからないけれど、私がやりたいものってこれだという直感がありました。ダンスといえば、講師やバックダンサーってイメージだったけど、パフォーマーがメインとなって、作品を作るということ自体にびっくりした。こういう人たちの活動が仕事として存在するんだ、と衝撃を受けましたね。社会に訴えたいことを作品に取り入れながら、自分のこだわりを貫く人たちには今でもすごい憧れがあります」

 ダンスという言葉では回収しきれないほど広い世界。憧れがあっても、学生時代は学校での修練に真面目に取り組んだ。

「芸術的な表現としてのダンスをやりたいとは思いつつも、スタジオで習うようなダンスもちゃんと続けていれば、それはそれで人とちょっと違うものを生み出せるんじゃないか、というか。既に踏んである道はあるから、私はそうじゃない道を開拓したいという気持ちで、卒業まで頑張りました。今振り返っても、やっぱり踊りって身体のことだから、そのときに習っていた身体の使い方を知っているのと知らないのとでは大きく違うし、後々に生きているなと実感することが多いですね」

「東京QQQは8人いるので、空間をデザインするような作り方に近いかも。全然頭の使い方が違うんですよ」とアオイさん。

 当時の興味が身体にとって大事な“食”へと移っていたこともあり、卒業後はフードディレクターの寺本りえ子さんに出会う。そこで、大きな転機を迎える。

「ある日、寺本さんから『今すぐ来れる?』と連絡があって。行くと、満島ひかりさんがごはんを食べに来ていたんです。実は満島さんは私のことをインスタで知ってくれていて、Netflixのドラマ『First Love 初恋』で踊りができる人を探していたんですよね。で、役者に興味ないかと問われて『あります』と、考える前に言っちゃった。いざやってみたらとても楽しくて。これもまた、人が導いてくれたものですね」

 時に、何かに委ねることで、人生は大きく変化する。ストイックな鍛錬は、身体のフットワークを軽くするための準備だったのかもしれない。だが、壁にぶつかることもあった。

「どんな仕事も勉強や経験だと思って引き受けるようにしていたのですが、次第に、期待に応えられなかったらどうしようとか、この人をガッカリさせたらどうしようとか、評価の基準が自分ではなく周りになってしまい、メンタル面でも揺らぐようになってしまって。なんでもやることに意味はあるけれど、それをやるための心身がだめになってしまってはいけないし、人に委ねつつも自分がやりたいと納得できるものを大事にしたいと思うようになりました」

 クライアントワークのみならず、パフォーマーの高村月さんとのユニット「アオイツキ」では毎月4本の新作を発表する時期もあれば、芸術祭でのパフォーマンスではその土地土地の歴史を学び、サイトスペシフィックに作品を制作する。人の言葉も自分の気持ちも信じて向き合い、あらゆる仕事を通して、常に前へと進むパワーは確実に表現へと昇華されている。最近行っている畑仕事で「自分がやっていることはこういうことだと気づいたんです」と言う。

「種を蒔き、野菜になって手元に帰ってくる。仕事も同じで、お金にならなくても、自分の人生の価値として重要な、生きがいとなる仕事があると思うんです。それを頑張ることは将来の自分に向けて種を蒔くことだ、と。先日の吉原での公演は、まさにそんな“生きがいとしての種”だと思っています。その種をたくさん蒔いて、今後の仕事に繋がれば素晴らしいし、実らなくても、別にそれは自分にとってすごく重要なものだから、どちらにしろハッピーなんですよね。ダンスは何か目に見える形として残るものではないけれど、確実に受け継がれるものはあると思うんです。だからこそ、少人数でもメジャーじゃなくても、それこそ、寺山修司の作品を見たときのワクワクする感動、『やっぱりこれが好きだ』と思える気持ちを信じながら仕事をしていきたいと思っています」

プロフィール

アオイヤマダ

あおい・やまだ|2000年、長野県生まれ。俳優としてドラマや映画にも出演。公演の楽曲制作(!)まで行うマルチな活躍ぶり。

Instagram
https://www.instagram.com/aoiyamada0624/?hl=ja