カルチャー
本能剥き出しのSilica Gel。「循環」の中でたどり着いた、自由な音とは。
ニューアルバム「Ballad of You」発売 & 来日記念インタビュー!
photo: Hiroshi Nakamura
text: Miu Nakamura
edit: Ryoma Uchida
2026年9月2日
「剥き出しのSilica Gelを見てください」。今年で活動11年目となるソウル出身のオルタナティブ・ロックバンドのSilica Gel(シリカゲル)は、そう語る。8月20日にリリースされた3rdアルバム「Ballad of You」は、まさにそんな言葉を体現している。力強いグルーブや複雑な重奏が印象的なこれまでのサウンドを残しつつも、これまでにはなかった軽やかなコーラスやグルーヴィーなジャズサウンドを積極的に取り入れ、バンドの未開の地を貪欲に探った一枚。安全な“乾燥剤”の袋を蹴破って、進化した姿を包み隠さずたっぷり披露している。
ますます韓国のインディシーンを虜にするそんな彼らに、来日1番のタイミングでインタビューできることに。新作の制作背景はもちろん、気になる韓国のジャズバンドに、最近のベストバイに自炊のことまで、今の彼らのキブンが詰まったユニークなアンサーの数々を、新作を聴きながら、じっくり読んでみて〜。
キム・チュンチュ (Gt, Vo)
キム・ゴンジェ(Dr)
キム・ハンジュ(Vo, Key)
チェ・ウンヒ(Ba)
趣味はインディペンデントに、でもやっぱり似たりもしていて。
ーーこんにちは! まずはメンバーのみなさんについてそれぞれお話しをお伺いしたいと思っていたのですが……実は取材前に、ボーカルのハンジュさんが「メンバーのことを一番理解している」と他の方から言われていましたね。改めてハンジュさんから見たメンバーについて、紹介していただいてもいいですか?
ハンジュ こんにちは! もちろんです。まずドラムのゴンジェさん。すごく温くて、メンバーのケアやフォローもしてくれるような方です。たまにやり過ぎなときもありますが、それが彼のユニークな性格を作り上げているような気がします。ときどき誰も予想もしない言葉をかけてくれたりして、バンドに新しい風を吹き込んでくれるような人物です。
ギターのチュンチュさんは、ゴンジェさんと同じく温かい人物なんですが、その表現方法が違うのが面白いです。ゴンジェさんがおおらかな優しさだとしたら、彼は1人1人に誠意を持って細かい点をフォローしてくれます。僕と似ている部分が一番多くて、音楽的なケミストリーもかなりあるのですが、たまにその真逆の性格を感じる瞬間もあって。本当に立体的な性格の持ち主だなと思います。
ベースのウンヒさんは、バンドを始める前から友達で、付き合いが一番長いのですが、人格が複数あるんじゃないかって思いますね。距離感としても近い関係なんですけど、ワイワイ戯れているときに急に表情が冷静になったりして、猫にも犬にもなる人物です。たまにこちらからグイグイ行きすぎて怒られてもいます(笑)。でも、きっと1番仲のいい友達ですし、地球が滅亡してしまうってときには自分の妻を除いて誰か1人を選ぶとするならば、ウンヒさんを選ぶと思います。でも、それに対して「僕はいいから、兄さん(メンバー)たちをどうにかしておいてくれ」って言ってくれる気がするんですよ。彼らのためっていうよりかは、ただ僕と一緒にいたくないからだと思うんですけどね(笑)。つまり、バンドの潤滑油で、緩衝材的で、精神的支柱のような、頼れる存在なんです!
ーーありがとうございます。メンバーの皆さんのわきあいあいとした空気が伝わってきます! 東京へはつい先ほど到着されたとか。来日中に行く予定の場所は?
ウンヒ 今回行けるかは分かりませんが、ずっと富士吉田へ行ってみたいと思っているんですよね。富士山が見えて、ドラマ『ホットスポット』(日テレ系)にも出てきた喫茶店があるようなエリア。でも、ホテルの予約も全くしていなくて、夢が叶うかどうか……(笑)。
ゴンジェ 日本に来るたびにメンバーは各々違う場所へ行くことが多いですね。御茶ノ水の中古楽器店へはみんなよく行きますし、『ハードオフ』は見つけ次第入ります。最初はギターから物色して、エフェクターを見て、Appleなどの電子機器をざっとチェックした後、玩具やフィギアを見漁り、もう一度電子機器コーナーへ戻り、最後はジャンク品でお宝探し、といった具合にとにかくジャンルレスに掘り出しまくってます(笑)。いもづる式に見つかる快感にはハマっちゃいますね。
ーーおー、かなりディグされていますね! 最近買ったものお気に入りのものは?
ゴンジェ ドラムのツインペダルを買いました。楽器以外の品も揃った日本の中古用品店は、圧倒的に手頃な価格で手に入れられて魅力的だし、何より雑多に並ぶ品々から欲しいものを見つけるのが楽しいんです。チェーン店に入って見るっていうのがコツです。
ハンジュ 僕はこのところめっきり物を買わなくなってきていて。その分、PCで扱うプログラムとかソフトウェアみたいな”物と呼べないもの”を買ったりすることが多いです。最近は「シンセサイザーV」というボーカルエディターソフトを買ったのですが、それがとにかく面白くて夢中になっています。メロディと歌詞を入力すると、ボーカルのデータを生成してAIが歌ってくれるんです。性能が良すぎて永遠にいじれちゃいますよ。
ーー見つけたものは、皆さんで共有したり?
ハンジュ メンバー間でそれぞれ好き好みが違うのでしないものも多いです。でも、プレイリストを選曲してほしいという仕事の依頼があったときに、みんながどんな曲を選ぶのかなーって見たりして、互いの好みやどんなフェーズにいるかを理解しあっています。
チュンチュ とはいえ、好きなことが重なっていることも。それこそ、’70sのフュージョンジャズに全員がハマっていてる時期があって、ニューアルバムにも今まで使ってこなかったジャズサウンドが盛り込まれているんですよ。
ゴンジェ 他にも、韓国のSETSETSETっていうインプロビゼーションジャズバンドをみんなで聴いているときがありましたね。彼らの曲の尺って、どれも数十分はあるんですよ。
それが影響してか、Silica Gelでも楽器を遊び感覚で用いて、いろいろな音をつなぎ合わせた18分のロング作品をリリースしたこともあります。逆に今は、1〜3分くらいの短い音楽を作るのがブームで、あえて自分が好きじゃない方法を使ったりしながらいろいろ試行錯誤中です。
↑実験的に作ってみた『S G T A P E – 03』は18分もの長さ!
音楽を料理するということ。
ーーブームといえば、新アルバムから先行リリースされた『モレキュラー・ガストロノミー』は、今までのSilica Gelらしい硬派なサウンドもありつつ、弾むようにリズミカルで軽やかなコーラスが混ざり合い、バンドの新たなフェーズを感じました。「試行錯誤」というお話しもありましたが、どんな気分で作った楽曲なんですか?
ハンジュ 「モレキュラー・ガストロノミー」というのが、「食材を分子とか原子レベルで解析しながら料理に活かす」という意味の単語なんですが、その過程が音楽と共通している、というような感覚をメンバー全員が持っていたんです。楽曲の骨格となるデモをもとに、音の細かな組み合わせやディティールをあれこれ試しながら作り込んでいく。意図せず出来上がった偶然的な音が、曲のスパイスとなることもありますよね。正解や明確なゴールがない世界で、僕らはどこまでいくことができるのか。おもしろ半分でつけたタイトルではありますが、なんというか……音楽を“料理”することで、同じプロセスを持つ2つの世界の架け橋となるような表現をしてみたかったんです。
ーー違いを熟知しているからこそ成せるクリエイティブですね。
ハンジュ そうかもしれないです。それでいうと、ウンヒさんはアーリオ・オーリオを最近完全にマスターしていましたけど。
ーーなんと。こだわりは?
ウンヒ やっぱりいい材料を贅沢に使う、のではなく、チキンストックや味の素を鍋にぶち込むのが決め手ですね。いい食材を揃えなくても、今持っている手数で作るんです。
ーーその姿勢は楽曲にも反映されているのかもしれませんね。みなさん、料理はされるんですか?
ゴンジェ 結婚してから、やっぱりする機会が増えましたね。韓国版のソバであるメミル麺は僕の料理のレギュラーメンバーです。
ハンジュ 僕は冷蔵庫にある食材から即席でパスタを作ることが多いです。食材を一つひとつ手入れして作っていくと、一番最後のプレーティングまで想像が行き届くようになるんです。妻が「手伝おうか」って言ってくれるんですが、「やめてくれ、僕の楽しみを奪わないでくれ……」って懇願しています(笑)。食材選びから盛り付けまでの一連のプロセスって、曲作りに似た面白さがあると思います。最も身近なクリエイティブと言えるかもしれませんね。
たどり着いたのは、知っている音、直感的な音。
ーー新アルバムのことについてもっと教えてください。幻想的でメロディアスなパートを楽しんでいたかと思えば、楽器のローサウンドが心地よく流れ、痺れるくらい迫力満点の重奏的なサウンドがやってきて、全12曲を通して旅をするようにたくさんの景色がみられるのが最高でした。今回の制作のイメージは?
ハンジュ 手塚治虫さんの『火の鳥』における「循環」や「輪廻」などの題材、仏教的な感覚に色濃く影響を受けました。自分の存在がいかにちっぽけかということを感じるし、人生の解釈へのヒントを与えてくれる。『火の鳥』の作中で繰り返される生と死についての演出が本当に美しいことはもちろん、そんな心を癒す形がいいなと思ったんです。
ゴンジェ サウンド面としては、21世紀以降に生まれたネオ・ガレージやネオ・サイケデリックのサウンドを自分たちの音楽を通して表現してみたいと思ったんです。MGMTやTears for Fearsなど、シンセサウンドと今らしい音をうまく合わせたようなジャンルを作り上げている方々の作品には、刺激を受けた部分も多いです。
ーーみなさん互いに様々な好みを持っているようですが、曲作りのプロセスはどんなふうにして?
ウンヒ 最初に紹介してくれたみたいに、みんなの特性やキャラクターを1番よく理解しているハンジュさんが、まず元となるデモを作ってきてくれるんです。それをチュンチュさんが分解していき、みんなで少しずつブレイクダウンを進めつつ、表現の解釈や方法を即席で作っていく感じです。
ハンジュ 音楽ってやっぱり言語なので、どうしても話をするってよりかは、聴かせてあげて、みんなが納得するポイントを探っていく過程が必要なんです。
ーー横断的なジャンルの組み合わせにも、チャレンジングなスピリットを感じました。
ウンヒ 今作で3枚目のアルバムとなるのですが、1stと2ndのアルバム間は、各々兵役などがあったりして、物理的にタームが空いていたんです。もちろんシングルも出しつつではありましたが、長い時間をかけて温めた作品が多かったんですね。前回まではインダストリアルでアグレッシブなトーンで、強度があったのですが、今回はリリースまでの間隔もぐっと短く、作り方もかなり感覚的なんです。あまり考えすぎず、聞き慣れたサウンドを惜しみなく出すことで、本能に忠実に作れたように思います。考えられない、とか、もう少し考えればよかった、という後悔もなく、剥き出しのSilica Gelが見られるんじゃないかと思います。
ゴンジェ ナチュラルな方へ自然と向かっていった分、サウンドもかなりミニマルスティックになりましたし、4人のアンサンブル的な魅力をたっぷり詰め込みました。演奏的な比重も増えて、パフォーマンスの場での展開や楽しさがぐっと増すんじゃないかなって今からワクワクしています。やっぱり、僕らの強みはライブにあると思うんです。
ーー音楽的にも新しい一面がたくさん見られそうですね。ライブで聴くのが待ちきれないです。ちなみにハンジュさん、記事の最初にメンバーを紹介していただきましたが、制作を終えた今、ご自身についてどんな風に感じていますか?
ハンジュ 僕は……大した人間じゃないですね(笑)。 生まれ持った気質的に、ついそう思ってしまうところがあるんです。でも、音楽はそうじゃなくて。誰よりも熱中して頑張っているように思いますし、音楽を通してであれば、美しいものを生み出すことができる。自分はそうじゃないけど、生み出した音楽は誰よりも作ることができるんだって感じることができます。『火の鳥』の“循環”に人生のヒントを得たと喋りましたが、僕は音楽を作ることで自分の価値を証明していく“循環”っていうのを、毎回制作を通して体感しているのかなって思います。
ーー最後に、読者の方々にひとことお願いします!
ハンジュ とにかく、来るアジアツアーが楽しみです。特に東京の会場は1番規模が大きいので、当日が待ちきれないです。行く先々で新しい出会いや発見があることを願っています! 東京公演がある11月21日は、予定を空けておいてくださいね〜。
プロフィール
Silica Gel
シリカゲル|ソウルをベースに活動する4人組インディーロックバンド。2015年に大学時代の友人らで結成。翌年発表した1stアルバムは、韓国大衆音楽賞にて「新人賞」を受賞、3度にわたり「最優秀モダンロック賞」を受賞する。2025年にはFuji Rockにも出演し、日本での活動の幅も広げる。2026年8月に3枚目となるアルバム「Ballad of You」をリリース。同タイトルを冠したアジアツアーが9月よりスタート。
Ballad of You
会場:Spotify O-EAST(東京都渋谷区道玄坂2-14-8)
日程:2026年11月21日(土)
時間:18:00開場、19:00開演
料金:¥7,500 (+1drink)
問い合わせ:Spotify O-EAST ☎︎03・5458・4681
概要はこちらから!
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