ライフスタイル

家の猫の話 Vol.30/文・ピエール瀧

2026年8月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

人間たちとひとつ屋根の下、空間を分け合って共同生活をしている我が家の猫たちですが、彼らは彼らなりに居心地の良い場所を家の中で見つけ出し、そこを自分専用の場所として機嫌良く過ごしています。

飼い始めた最初の頃は「キミらってこういうとこが好きなんでしょ?」なんつって、猫タワーやら猫ちぐらなんかの“猫用家具”を買い与えてみたことはあるのですが、ウチの猫たちにはそこまでハマりませんでした。最初のうちだけちょっと興味を示して、しばらくするとすっかり飽きて完全無視。まあ、人間の赤ちゃんに良かれと思ってナチュラル志向の木のおもちゃ買ってあげるみたいなコトですかね。買う側が抱く勝手な理想から現実はちゃんとかけ離れていて、速攻でまあまあデカいゴミになりました。

ブイヨンが最近気に入っているのがピアノの上。娘が習い事をしていた頃は譜面立てが常に立った状態で、練習中の楽譜などを開きっぱなしにしていたので、猫が足を踏み入れるスペースは全くありませんでした。鍵盤の上だけはたまにコロッケが飛び乗って娘の演奏の邪魔をし、奇っ怪な即興メロディーを生み出していましたが(笑)。最近では娘がほぼピアノに触らなくなったので、楽譜を片付けて譜面立てを寝かしたところ、ブイヨンお気に入りの冷んやり寛ぎスペースが出現した感じです。ブイヨンが床や他の家具から一段高くなっている場所で優雅に寝そべる“女王感”は、ピアノという楽器が纏うセクシーさと相まってとても絵になっています。

コロッケのマイスペースは階上のトイレ内の床です。なぜそんなところが気に入っているのかわかりませんが。「ん?トイレの扉がちょっと開いてるな」と思ってドアを開けてみると、床にコロッケが普通に寝そべっていて「なんか用?」みたいな感じでこちらを向くので笑えます。コロッケにしてみたら、猫が本能的に求める“暗くて狭い穴っぽいところ”なのでしょうが、実際はトイレなんですよね。しかも夏はかなり暑くなる場所なのに。本当に寛げているのでしょうか?

思い返してみると、コロッケは一番最後にこの家にやってきた猫なので、先住猫(コンブ&ブイヨン)にすでに家の良い場所を取られてしまっていたのかもしれません。成長と共に、限られた空間で“自分だけの場所”を模索する中でトイレに行き着いたのだと思われます。これはなぜかというと、ウチの猫の中で扉を開けるスキルを持ってるのはコロッケだけだからです。オイラが朝、慌ててトイレに駆け込んで扉がちゃんと閉まっていなかったりすると、キィ~~なんつって前足で器用に扉を開けてズカズカと入ってきます。で、朝のご飯の催促。オイラがすぐに便座から立ち上がって対処せずにモタモタしてたりすると、近寄ってきてスネを遠慮なく噛んできます。しかも甘噛みじゃない方で。腹が減ってるが故に。

コロッケはこの扉を開ける技術によって、階上と階下のトイレへの優先アクセスを手にいれ、今となっては娘の部屋への侵入路も開発し、昼夜を問わず娘のベッドでしれっと眠りこけたりしています。独自の特殊スキルによって遂に手に入れた安息の場所。実は我が家の構成員の中で、コロッケが一番多くこの安息の場所を手に入れているとも言えます。やりますよね、個室ですもん。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』『ガス人間』(Netflix)、映画『宝島』(大友啓史監督)映画『ホウセンカ』(木下麦監督)のほか多数出演。映画『NEW GROUP』(下津優太監督)公開中。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/