ライフスタイル

私のいえは、東京 山のうえ Vol.36

社本真里の隔週日記: もうしわけなさ

2023年7月13日

photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki

 暑い。けど、まだエアコンを入れないと我慢している。 週末、パートナーは今週の暑さを悟ってか、お風呂場でフィルターをせっせと洗っていた。 私はそれを見ながらまもなくエアコン生活が始まってしまうのかと怯えている。 檜原の小屋にはエアコンはなかった(村は付いていない家が多い)のと、 人工的な風が苦手なこともあって、エアコンに頼ることが怖い。

 二拠点の生活が始まって数ヶ月がたった。「最近ほんとに見なくなっちゃったね」とか「今日は、居るんだね」という全く悪気のない声掛けが心に残る。集落に住む小学生の男の子が私がひとりでいるところに来てこっそり「集落のこと嫌いになっちゃったの?」と呟いた。「嫌いになるわけないじゃーん」といつものように戯れあいながらもつい泣きそうになってしまった。

夕方小屋の明かりが付いているとたまにニヤニヤとした顔で集まってくる子供たち。知らないうちにいたずらをされていた。照明に庭の紅葉の葉っぱが巻き付いていたのに、翌朝になって気が付く。

 週の数日だけ村で暮らすということに非常に“もうしわけなさ”を感じている。(もちろん誰からも何も言われていない)何か集落で起こったとき、自分はそれに対して何もできないかもしれない。 自分自身の暮らしに責任を持てていないことが、私の感じているもうしわけなさで、 私の集落での暮らしを支えてくれているのは、ここで暮らす人たちだと思うと、 みんなと対等な気持ちでいられなくなっていることがとても寂しいし、悔しい。

 自分らしい暮らし方ってなんだろうと考えてしまうが、小屋暮らしを離れることを想像すること はまだ難しい。もう少しだけと毎日頭の中をぼやかして、言い聞かせている。

夏の始まりの朝。春さきから聞こえる鳥たちの鳴き声も上手になってきた。 

プロフィール

社本真里

しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。