ライフスタイル

私のいえは、東京 山のうえ Vol.35

社本真里の隔週日記: 半分、街に住む2

2023年6月26日

photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki

 今年の梅雨はしっかり雨が降っている。去年みたいに、小屋の周りに砂埃が立つようなことはなさそうだ。

 3日くらい帰らないと、小屋の中は旅行から帰ってきた日の匂いがする。二拠点での生活が始まったけれど、小屋の中の景色はほとんど変わっていない。調理道具や服は半分くらいを新居に持って行き、電化製品や家具、本は残した。

半分引っ越しても何も変わらない、小屋のキッチン。村で過ごす日はジローさんところでご飯を食べることが多いので、料理することが極端に減った。

 はじめの頃、化粧品などの毎日使うものは持ち歩いていたけど、荷物が多くなるし、忘れ物も増えたのでどちらにも同じものを置くようにした。家電は必要最低限にしたいので、小屋の生活と同じく炊飯器とトースターは置かずに土鍋と鉄フライパンで補っている。ただ電子レンジだけはパートナーが必要だというので、オーブン機能が付いているものなら、と互いに歩み寄るかたちになった。あまり使わないだろうと思っていた電子レンジは便利でなんだかんだ使っている。ヨシコさんが家で使っていなかった机(昔、村の小学校の理科室で使われていたものらしい)や食器などを譲ってくれたので、新しく買うものも少なく済んだのでとてもありがたかった。

ヨシコさんから譲ってもらった理科机。引っ越して間もない頃の写真。この机が新居の中心になっている。

 ある日、電車で通勤してみることにした。新居から駅までは歩いて15分、足早に駅へ向かう人たちにあっという間に追い抜かれた。電車は、都心部へ向かう流れとは逆の方向に進むので、比較的空いていて安心した。檜原村には駅がないので、最寄りの武蔵五日市駅からは結局20分くらい車を運転することになるのだが、最寄り駅までの1時間弱を運転するのか、公共交通を使うのかはとても悩ましい。電車は檜原に近づくにつれて本数は少なくなり、最後の五日市線は30分に1本となるので、タイミング次第でしばらく待つことになる。車は時間に縛りはないが、朝夕のラッシュ時に運転するのは、毎日だと少し疲れてしまった。

 街から村へ、1時間半の通勤の間には流れている時間の速度が明らかに違う。電車がホームに来るペースも、人の歩く速度も、息遣いも、自分も気づいたらその場所の速度で動いている。便利ってなんだろう、時間ってなんだろうといろんな状況を天秤にかけながら、どう過ごすのが心地よいのか、今日も無駄にたくさん悩んでいる。

プロフィール

社本真里

しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。