フード

FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.16

🇱🇦ラオス料理店『ランサーン』官志明さん/インタビュー・土井光

2023年3月30日

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、料理家の土井光さんと巡るコラム!

 ラオスはタイ、ベトナム、中国、ミャンマー、カンボジアと隣接している国で、世界地図を見るだけでもいろんな出来事が起きたことが想像できます。そんなラオスから身一つで来日したオーナーの官さんは、時代と共に様々な経験をした方です。ひとつひとつのお話しが興味深く、インタビューでもとてもいい時間が過ごせました。そしてもちろんお料理への直向きな姿が素晴らしく、お母様の味を大事にされていることが伝わります。野菜も多く使われ、一切油っぽくありません。辛味が苦手な私ですが、なぜか食べれてしまう辛さ……。(もちろん調整可能です!)美味しい餅米カオニャオダムがあれば、さらに食欲は増すはずです! みなさんも官さんのラオス料理にロックオンされてください!

今回取材したお店の国

ラオス

・面積は日本の本州ほど
・国土のほとんどが山岳地帯
・タイ、ミャンマー、中国、ベトナム、カンボジアと隣り合わせの内陸国
・約50の民族が暮らす多民族国家であり社会主義国家
・公用語はラオス語で、「美味しい」はແຊບ(セェープ)

ラオス料理は聞き慣れないメニューが多いですが、初めて食べる人はどのように注文するのがおすすめですか?

蒸した餅米である「カオニャオダム」と一緒に、何品かおかずを注文するのがラオス料理の基本です。ハーブをたっぷり加えたひき肉サラダ「ラープ」、ラオス風パパイヤサラダの「ソムタムラオ」、ラオス風焼き鳥の「ガイヤン」の3種類の組み合わせがスタンダードですね。サラダといっても、どれもご飯と合う具沢山のおかずのような感じです。

たっぷり量もあるので、3〜4人でシェアするとより楽しめそうですね!

ぜひ、ラオス流の食べ方で召しあがってほしいです! まず、掌いっぱいに収まるほどの餅米を利き手じゃない方の手で掴み、クルクル回しながら揉みます。そして利き手で一口サイズにちぎり、その手でおかずを一緒に摘んで食べるんです。餅米は食べ終わるまでずっと持ったままでOKで、現地ではお皿は使いません。

おかずを取るときは、親指ですくうように掴むのがポイント。食べるときは、舌を思いっきり出して指が口に触れないように舌の上にのせる。みんなでシェアして食べるので、指が常に綺麗な状態のまま食事をするための工夫だ。

不思議と、餅米で手がベタつくことはないんですね! むしろサラサラして綺麗になる感じがします。ソムタムラオとラープは見た目の想像以上にかなり辛味が効いていますね。

基本的にラオス料理は辛いですし、辛くないと美味しくないです! ただ、辛いものは苦手だけどラオス料理を楽しみたい、という方もいるので、本来の味わいとは違うことを納得してもらった上で辛さ調整も対応しています。

ラオスの家庭でも食べるそうですが、子供たちはこの辛さは大丈夫なんですか……?

日本では子供の好物に合わせてご飯が決まる家庭も多いと思いますが、ラオスでは1番の稼ぎ頭であるお父さんの好物が食卓に並び、家族で一斉に食べ始めるのが一般的です。なので、子供たちは辛いものが苦手なんて言っていられない(笑)。なくなる前にヒーヒー言いながら必死に食らいついているうちに、気付いたら辛いもの大好きのラオス人になっていくんです。

食文化の継承は、家庭の食事のルールも大きく影響しているんですね。お母さんのご飯作りを手伝うこともあったんですか?

ありましたよ。ラオスの小学校では一度下校をして昼食を家で食べるのですが、お母さんは私が学校から帰ってきてから火を起こして、ご飯を炊いておかずを作っていたので、早く食べたいがためにお手伝いをしていました(笑)。そのおかげで、故郷の味の作り方を見様見真似で覚えることができたので、今こうして日本でラオス料理を振る舞うことができています。

メニュー表に貼られているお母さんの写真。

お店はいつオープンされたのですか?

1990年ですが、1975年に来日してからお店を持つまではとても大変な時間でした。そもそも、来日自体が急な出来事だったんです。ラオスで家や店に電化製品を設置する仕事をしていた頃、ほとんどの製品が「メイドインジャパン」だったのが来日を決めたきっかけでした。先進的な技術が学べるんじゃないかと。親に相談したら、ビザもお金もすぐに用意してくれて、10日もしないうちに日本に送り出されたんです(笑)。

ええ! お母さんの行動力と迷いなき支援が素晴らしい。けど、言葉も文化も違って困らなかったですか?

それはもう困った!(笑) 寒い冬の日本にあたたかいラオスから半袖一枚で来てしまったので、早速パニックですよ。洋服を買うところからスタートし、言葉もわからないから望んでいた仕事にも就けず、うろうろしているうちにラオスが共産主義に変わって帰国すらできなくなってしまった。料理屋で皿洗いとして雇ってもらったのですが、ガイジンと言われてバカにされたり苦労続きでしたね。

何もかもが一からのスタートだったんですね。

ラオスにいたときは常に先へ先へと希望を持っていたのに、なぜ自分はどん底まで落ちてしまったのかと悲しくなりましたね。でも、たかが皿洗いとはいえ、何事も次のステップに進むためには一番下っ端からはじめて少しずつ認めてもらわなければいけない。なので、調理場の仕事を手伝わせてもらえるように皿洗いを早く終わらせたりして、徐々に調理の知識を学ばせてもらいました。

小さな仕事でも、できることを自分で考えて行動することの大事さを思わされますね。お店のオープン後も大変なことはありましたか?

お店が2階なので、お店にも気付かずに通り過ぎられることが多くて。なので、足を運んでくれたお客さんを本当に大切に大切にして、信頼関係を築いていきました。口コミでおいしいと広めてくれたり、お客さんに支えられながらここまでやってこれましたね。

官さんが常に一生懸命なのも、『ランサーン』が長年お客さんに愛される理由ですね。私も吉祥寺に行きたいと思うお店がひとつ増えました。今日はありがとうございました! 

インフォメーション

ランサーン

東京都武蔵野市吉祥寺本町1-32-9 吉祥寺ハシモトビル2F ☎︎0422・21・8412 11:30〜13:30・17:00〜22:00、土・日17:00〜22:00 不定休

Instagram
@lao.thai_lansang