TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】飾りたくて仕方ない
執筆:リヴォトルト・ピーシーズ
2025年8月22日
この場所は我が家の玄関の扉。
窓から差し込む光に輝く紙の姿が見たくて、お気に入りの中から無作為に選んだ何枚かをその時々の気分で貼り替えています。光を吸い込んだ紙の表情は神々しく(まさに紙々の姿!)、ぼんやりと眺めている時間が至福なのです。
この日に選んだのは、敬愛する画家たちのポストカード、古い雑誌に付録でついてきた李禹煥の小さな版画、1943年に製造されたジョンソン・エンド・ジョンソンのガーゼの包装紙、イタリア・アッシジのステーショナリーショップで見つけた活版印刷の蔵書票、韓国のキャラメルの包み紙、祖父 ・小島悳次郎の型染め作品、私たちの絵や遊んだ紙、といったラインナップ。
見知らぬ人々と乗り合わせたボートでのひと時のような、寄り集まった紙たちのささやかな一体感が生まれる相席スポットが我が家にはいくつも点在しています。
私たちはふたりとも捨てられない性分なので、つい物を取っておいてしまいます。
もらったクッキーの小包装や、洋服を買ったときのリボン、飾ったあとのお花や、紙のお香の燃え残りなんかも。
加えて自分たちでも作ってしまうものだから大変。仕事で出る紙片でさえたくさんあるのに、日常でも紙で遊ぶから増えていく一方。小さなものはガラスの薬瓶や小箱に入れて、家のそこかしこに置いています。
ちょっとの隙間があれば、飾りたくなってしまう……。
枯れてしまった芍薬の花と紙片は美しくて絶対に捨てられない。
貝や石、FRPの板、土器、作家の作品。紙と一緒に。
束になった手漉きの紙は本当に可愛い。こんなにも色も質も異なる白色がある。
制作のために裂いた紙は吊るして、保存しているような飾っているような状態。
最近届いた荷物の梱包材。鮮やかなブルーが夏にぴったりで、壁沿いのコレクションに仲間入り。ものづくりのアイデアもここから生まれる。
改めて考えると、装飾ってなんなのでしょう。
評論家の山崎正和氏は著書でこんなふうに語っています。
彼はこの茫漠に逆らって存在の確かな浮標を求め、一つの「聖別」された個物と心の密約を結ぼうとする。そして選んだ個物を目に見えるかたちで「聖別」し、結んだ密約を自他に証明するためにおこなうのが、装飾という造形であった。
(『装飾とデザイン』山崎正和 中公文庫 P.128)
たしかに、飾るという行為に関わるきっかけは、他の誰でもなく私と物との間の出来事。他人にとってはどうでもよくても、私が大切に思った物ならば、それは「聖別」されて、私との間に「心の密約」が結ばれるのです。
そういえば、旅先で見たポンペイの壁画には驚かされました。
人と物との密約が社会へと繋がり、信仰となり、政治や文化や俗的な風習も含めて形成していった世界が広がっていました。壁や床に描かれたひとつひとつが意味を持ち、その空間の機能を支えていたのでしょう。
日本の家は狭いから飾る風習がないと耳にします。本当にスペースの問題なのかな? とも思います。
文字を書きたいという要望から紙が生まれてきたように、自分にとって「この物は大切だ。飾りたい」と心に芽生えたときに初めて、装飾する壁や景色を見つけることができるのではないかと思います。
まず大切なのは人の心なのだと、信じているのです。
プロフィール
Rivotorto Pieces
リヴォトルト・ピーシーズ|「Paper Textile(紙のテキスタイル)」を展開する小島沙織と島田耕希によるユニット。東京藝術大学デザイン科在学中より二人での制作活動を始め、2016年にクリエイティブスタジオ〈SHIMA ART&DESIGN STUDIO〉を設立。各地から収集したさまざまな紙を素材に、破る/編む/貼る/染める/描くことを手法とし、歴史、文化、生活に根差したグラフィックデザインや図案を制作する。2023年『FRAGILE BOOKS』にて個展「Passage of Paper Textile / 紙々の断章」、2024年『twililight』にて個展「鳥渡の浮遊」を開催。同年より〈written by〉のテキスタイルのアートワークを担当。また、小島沙織は型染め作家としても活動し、2023年に日本民藝館展奨励賞受賞。
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