フード

FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.4

🇲🇽 『Los Tacos Azules』マルコ・ガルシアさん/インタビュー土井光

2022年3月8日

interview: Hikaru Doi
design: Shoko Yoshida

海外から来た方が日本でオープンした外国料理の店は、味はもちろんだけど、それと同じくらい店主の人柄や考え方が魅力的だったりする。各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の名店の店主を料理家の土井光さんと巡るコラム!

Netflixでメキシコ料理のドキュメンタリーを見てから、東京でメキシコ料理を食べたい欲が強まりました。しかし東京で出合うタコスたちは、美味しいのですがジャンクフード感が強め。マヨネーズや辛いソースの存在感が強く、お酒のつまみになるよう味も濃い。そんな時、「ロス・タコス・アスーレス」に出合って衝撃を受けたのを覚えています。お寿司屋さんのような清潔感、ヨーロッパのカフェのようなお洒落な店舗。そして素材を大事にしたメキシコへの愛が詰まったお料理にしびれたのを覚えています。丁寧に作られたタコスを食べれば、マルコさんのファンになること間違いなしです!

 

今日はよろしくお願いします! このお店が好きで何度かお邪魔しているのですが、いつもここのトルティーヤはなぜ黒いのか気になっていて。

これは青いマイス(とうもろこし)から作っています。青はスペイン語で「アスール」。だからお店の名前はロス・タコス・”アスーレス”なんです。メキシコでも2年ほどタコスのお店を営業していたんですけど、その時も同じ店名で、この黒いトルティーヤを出していました。ですがこの青いマイスは、モンテレイという北東部にある僕の地元でも知らない人が多かったです。

マイス(とうもろこし)
生の状態のマイス。右側が黒いトルティーヤの原料である青いマイス。

え! それはどうしてですか?

メキシコは日本の5倍もの面積があるので、食文化の豊かな日本と比べても、それ以上に地域によってバリエーションがあるんです。メキシコ料理というと、アメリカナイズされたジャンクなイメージが少し強いかもしれませんが、驚くほどに歴史も深いし、地域ごとに誇れる良いものが食べ尽くせないほどあります。

そうなんですね。これをどのようにトルティーヤにするのですか?

古代のメキシコ人たちが発明した「ニクスタマル」という方法なのですが、マイスをアルカリ性の高い石灰水で茹でます。これを専門の機械で砕いて捏ねたら生地ができるんです。この生地を「マサ」と言います。この製法は、伝統的に長く守られてきたメキシコ独自のものというのが素敵ですよね。

具材が乗っていてもマサのいい香りがちゃんとして感動しました! これを丸くしたらトルティーヤになるのですね。

はい。トルティーヤプレスで薄く伸ばして鉄板で焼いたら完成です。乾燥させて揚げたら、自家製チップスも作ることができます。今ではメキシコのスーパーに大量生産のインスタントトルティーヤも売っていますけど、手作りしたマサの焼き立てはその何倍も美味しいですよ。

↑マサを鉄板で焼いて、
↓膨んできたら頃合い。

トルティーヤひとつとっても、食材から作り方までものすごく伝統的なんですね。もしかして、タコスの具もそういう歴史があるんですか?

いわゆる定番は煮込みや野菜を使ったものが一般的ですが、例えばおにぎりの具のようにこれといった決まりはないんです。僕の場合はせっかく日本にいるので、日本の食材を存分に活かして作っています。沖縄の豚や、岩手の放牧の短角牛など、お肉も全て国産。野菜は旬のものを用いて、今は春菊やレンコンのメニューがあります。

日本の食材が合うのは、日本人の私たちからしても新鮮ですね。

タコスはメキシコの伝統的な食べものですが、このようにメキシコ以外の食材を新たな視点で盛り込むことで、今までにない美味しさが作れるんです。これを聞くと、ものすごく可能性を秘めていると思いませんか? なので、もっと生産者の食材を活かしたプロジェクトも考えている最中です。

ロス・タコス・アスーレスのメニュー
黒板のメニュー表。バリエーション豊かなタコスの他に、メキシコのちまきのようなタマレス、ケサディーヤなども。

本当ですね! そのような考えで作られたタコスを、初めてお邪魔して頂いた時は衝撃でした。

もちろんメキシコの食材を輸入してそっくり再現するのも悪くないですが、輸入している間に鮮度が落ちてしまいますよね。どこの国にいたとしても、料理する食材にとって一番大事なのはフレッシュさだと僕は思うんです。日本でもメキシコでも、伝統方法を守って作られたクオリティの高い美味しいご飯は、食材も新鮮なものを使っていました。なので日本にいるなら、国産の食材を使うことにしています。いろいろな挑戦ができてワクワクもしますし!

食材にこだわるからこそ、こんなに美味しいタコスができるんですね。

カクテルもタコスと同じようにこだわっていますよ。メスカルというアガベから作られたメキシコ特産の蒸留酒で作っているんですけど、これが少しお高めで(笑)。ですが、アガベ自体に何万年の歴史があること、アガベの収穫までに長いものだと20年もかかること、収穫はすべて手作業ということ、蒸して原液を抽出する時も馬の力を借りて石臼を挽かせることなど、今でも古典的な製法を継承しているのでリスペクトしかないです。香りもものすごく良いので、値段は張ってもメスカルで作ったカクテルは格別です。シンプルですが、良いものを作るには良いものを使うべきだと思います。

メスカルで作ったカクテル
ストレートで試飲させていただいた。アルコール度数は強いが、爽やかな味わい。

どおりでカクテルが美味しかったわけですね。

ここまで食材を意識しているのには、日本の影響がものすごく大きいんです。このお店を開くために東京に来たのは2019年の時でしたが、今から17年ほど前に留学で一度東京に来ています。その時は国際関係の仕事をしていたんですけど、東京で食べるご飯がとにかくどれも美味しくて驚きの連続でした! 帰国後もその話をし続けていたら、友達に「そんなに好きなら日本に帰れ!」と言われましたが(笑)。

なるほど。それで東京にお店を?

そうですね。食材も作り方も一からこだわるお店ばかりで刺激的で、そんな環境に身を置きたくて東京でお店を出すことを決めました。お店のある三軒茶屋は尊敬するお店が近所に何店もあるので、この場所を選んで良かったと心から思います。

矢尾板克則さんに特注した食器
カジュアルな朝タコスのコンセプトに合うよう、食器は作家の矢尾板克則さんに特注。

メキシコも素敵なお店がいっぱいあると思うんですけど、メキシコはどうだったんですか?

僕がメキシコでお店をしていた当時は、メキシコ全体の食への関心が低かったと思います。ですが、嬉しいことに最近はそれが確実に変わっています! ジャンクではないメキシコのルーツを大事にしようというムーブメントが起き始めているんです。僕もまったく同じ気持ちですし、多くの人に知ってもらいたいので、このお店には日本人の方々に来てほしいですね。

素敵なスタッフの方々が沢山いらっしゃって、初めてのお客様にも心地よいお店だと思いますよ!

接客も日本語で、日本人のスタッフの皆にも働きやすい環境にしようと頑張っています。そうすることで、メキシコ料理やメキシコの素晴らしさを届ける一員になれたら嬉しいです。

タコスを作るマルコさん
おもむろにタコスを作るマルコさん。寿司屋のような品のある空気感が漂う。

マルコさんのおかげで、もうすでにメキシコ料理の虜です! 今日は本当にありがとうございました。

インフォメーション

Los Tacos Azules

◯東京都世田谷区上馬1-17-9 ☎︎03・5787・6990 9:00〜LO14:00、土・日9:00〜LO16:00 月・火休