フード

異国の店主と土地の味/シチリア料理店『ニーノカフェ』Vol.20

インタビュー・土井光

2023年8月12日

interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム

『ニーノカフェ』店主のニーノ・レンティーニさん。

土井光(以下、土井) ニーノさんはイタリアのシチリア島出身だそうですが、日本に初めていらっしゃったのはいつですか?

ニーノ・レンティーニ(以下、ニーノ) 26年前の1997年に、九州で行われたイタリアンフェアのために来日したのが最初ですね。そこで、香川県の高松にレストランをオープンするという方に出合い、日本でシェフとして働くことに決めたんです。はじめは高松、そのあと長崎県の佐世保のレストランに移り、銀座のレストランにも数年勤めました。

土井 シリチア島にいた頃からお料理はされていたんですか?

ニーノ もちろん。14歳から地元のレストランで働き、シチリア島に自分のお店も構えていましたよ。来日してからは、言語が分からなくて胃が痛くなりながら仕事をしていた時期もありましたが、「日本でも自分のお店を持つんだ」と決めていたので、精一杯働きましたね。いつか、自分のアイデアで美味しいものを届けられるようになろうと。

ニーノさん自ら考えたカフェの内装。シチリア島で作られた調度品などが壁に飾られ、楽しげで明るい雰囲気。椅子やテーブル、タイルやチェリー材もイタリアからの輸入品。

土井 今、ニーノさんは2店舗経営されてますよね。今回紹介させていただく『ニーノカフェ』と、『リストランテ・ダ・ニーノ』というレストラン。

ニーノ そうです。2006年に『リストランテ・ダ・ニーノ』、2015年に『ニーノカフェ』をオープンして、レストランでは、ワインと一緒に本格的なシチリア料理を主にコースで楽しめて、カフェでは、パニーニなどのサンドイッチや、カンノーロなどのシチリア島の伝統的なドルチェをご用意しています。高松、佐世保、銀座のレストランに来てくれていた常連さんが今でも遊びに来てくれて、「お店も料理も、どんどん成長するね」と喜んでくれるのも嬉しいですね。

エスプレッソマシンも常備。

土井 カフェは隙間の時間にサッと休憩できるだけじゃなくて、ランチやディナーまで食べられて使い勝手もいいし、私も何かと利用しちゃいそうです。

ニーノ フォーマルなレストランとカジュアルなカフェの両方を持っていることで、シチュエーションに応じてシチリア島の料理を味わってもらえて嬉しいです。ショートパンツや、タトゥーが見える服装での来店はお断りしているレストランと比べて、カフェはどんな方もウェルカムですし。ただ、メニューも一応変えているのですが、もし希望があればカフェ内でレストランメニューを出すこともできますよ。

土井 どうしてそんなに融通が効くんですか?

ニーノ レストランとカフェはそれぞれビルは違うけど、目と鼻の先の距離ですし、カフェで出すメニューも基本的にすべてレストランのキッチンで作っているので、柔軟に対応できるんです。

土井 レストランの大きなキッチンがあることで、普通のコーヒー屋さんではできないことができるんですね。その分忙しそうですが、キッチンにはニーノさん以外にもシェフの方がいらっしゃるんですか?

ニーノ スタッフは数人いますが、シェフは私1人。日本に来てからは一度もシェフを雇ったことはないですね。毎朝6時にお店に着いて、テーブルと椅子をセットして、それからカフェで出すパンやドルチェ、チョコレート、クッキーなどの仕込みをして……。昨日も3時間しか寝てないです(笑)。でも、動いているときより、ゆっくり休んでいるときの方が疲れる気がして。

パニーニなどの入ったショーケースの隣には、美しいドルチェや自家製チョコレートが所狭しと並び、この空間はまるでパティスリー。

土井 私の知っている、休暇大好きなイタリア人のイメージとは全然違います(笑)。

ニーノ 銀座のレストランに勤めていたときも、毎朝5時にお店に行って、自分にできることをやろうと必死でしたね。オーナーには、「時間外のお給料は出せないから無理しないでね」と言われたんですけど、お金は関係なくとにかく頑張りたかったんですよね。

土井 パンやドルチェをすべて1人で作っているのも驚きですし、仕事と料理に対するパッションが凄まじいですね。メニューも多くて迷っちゃいますが、ニーノさんとっておきの一品はどれですか?

ニーノ ドルチェでいうなら、カンノーロはぜひ食べてほしいですね。シチリア島でお店をやっていた頃、物件を貸してくれていた大家さんに2週間前には必ず家賃を払っていたことで信頼してくれて、その方の家で代々受け継がれていた200年前の伝統的なカンノーロのレシピを譲ってくださったんです。「あなただけにあげます」って。そのレシピで作っている特別なカンノーロなんです。

注文を受けてから、サクサクの生地にクリームをたっぷり詰め込むカンノーロ(¥1,100)。お持ち帰りもできるが、生地がふやけてしまうので、店内でエスプレッソ(¥400)などと一緒にその場でいただくのがおすすめ。

土井 そんなストーリーがあったとは……! たしかに日本でよくある生クリーム感の強いカンノーロとは違って、リコッタチーズがふんだんに使われていて美味しいですね。淹れたてのエスプレッソともよく合うし、ほっと一息つきたいときにまた遊びに行きます。今日はありがとうございました!

土井さんからのコメント。「一歩お店に入った瞬間にシチリアの陽気な雰囲気がわくわくさせてくれるお店です。店内はエスプレッソマシンの香り、パンやお菓子の甘い香りが溢れています。小さい頃から料理と近かったニーノさん。家にいるより厨房にいる方が人生の中でかなり長いのが分かります。取材をしていても、お客様や店内に気を配られている様子。『精一杯』、『頑張る』など、言葉の中に熱い思いを感じました。カフェでは絶品のカンノーロがとくに私はお気に入り! リコッタチーズがダイレクトに味わえ、生地自体もとても美味しい。甘さが抑えてあるので、ケーキなど食べ慣れていない方にもおすすめです。パニーニでランチでも、パスタを食べてがっつりでも、アペリティフにも。様々な使い方ができるニーノカフェで、シチリアの心地よいゆったりとした時間を体験してみてください!」

インフォメーション

Nino Caffè

東京都港区南青山1-25-1 Bronze南青山1F ☎︎03・3423・5286 9:00〜21:00 日・祝休

Instagram: @ninocaffe_nogizaka_

今回取材した店主の出身地について

イタリア・シチリア島

◯イタリア半島の南に位置し、イタリアの州の中で最も広い。
◯面積は日本の四国の1.4倍ほど。
◯地中海のほぼ中央に浮かぶ、地中海最大の島。
◯北部には山脈、中央には山地、東部には火山。平地は少なく、壮大な自然に囲まれている。
◯大聖堂やギリシャ神殿など、観光にも適した歴史的建造物が多い。
◯イタリア語で美味しいは、Buono(ブォーノ)。

場所はここ

赤い線で囲まれた島がシチリア島。