フード

異国の店主と土地の味/スリランカ料理店『バンダラランカ』Vol.19

インタビュー・土井光

2023年7月28日

interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム

『バンダラランカ』店主のL.K.M.J. バンダラさん。

土井光(以下、土井) スリランカ料理を都内で楽しめるというだけでも珍しくてワクワクしますが、お店に入った瞬間、まるでスリランカのリゾート地に来たような内装にまず驚きました。内装はご自身でデザインされたんですか?

L.K.M.J. バンダラ(以下、バンダラ) はい。スリランカで日本はポピュラーですが、日本ではまだまだスリランカが知られていないので、現地の味だけでなく雰囲気そのものも感じてもらえるレストランにしたんです。木が基調になっていて落ち着くインテリアデザインは、ジェフリー・バワというスリランカ人の有名建築家がデザインしたホテルを参考にしました。

土井 バンダラさんの接客もスマートで、ホテルのような雰囲気もたしかにありますね。

バンダラ 『バンダラランカ』をオープンするまでの12年間、『コンラッド東京』や『ザ・ペニンシュラ東京』、『ザ・リッツ・カールトン東京』などの日本のラグジュアリーホテルで働いていたんですよ。4年間勤めた『インターセクト バイ レクサス』ではマネージャーまで任せていただいて、ホテルマン時代の経験が確実に今につながっていますね。

土井 ということは、日本のホテルで働きたいと思って日本にいらっしゃったんですか?

バンダラ そうですね。スリランカにいた頃もホテルマンとして働いていたんですけど、日本の礼儀正しいマナーや文化に興味を持って2002年に来日しました。もちろん最初は日本語が喋れなかったので、まずは日本語学校に通い、卒業後にホテルスクールを経て就職という流れです。

土井 はっきりとした目的のために、言語をマスターするところから計画的にスタートされたんですね。日本のホテルにいた頃からお料理もされていたんですか?

バンダラ 基本的に、レストランやバーでサービスをしていましたが、自分で作ったスリランカ料理を振る舞うイベントなどを、休みの日を使って独自にやらせてもらってました。そうしているうちに、「もっと母国のスリランカについて知ってもらいたいし、自分でお店を持って広めていけたら面白いはず」と思うようになって、2018年にこのお店をオープンしたんです。

レンズ豆やチキン、カボチャのカレーとともに、大根のスパイス炒めやケールのココナッツ和えなど10種類以上の具材がスリランカ産赤米とイエローライスの上に盛られた、ランチタイムのワンプレート。すべて混ぜるのではなく、2、3種類の具材とご飯を一緒に味わうのがバンダラさんのおすすめ。デザートとスリランカ産セイロンティー付きで2530円。

土井 スリランカ料理の味や作り方として、大きな特徴はどんなものがあるんですか? よく使う食材や、辛いや甘いなど……。

バンダラ いろんな種類のスパイスを使うので、全体的にしっかりとした辛味があります。厳密にいうと違いますが、日本でいうところの「カレー」には、シナモンやカルダモン、ペッパーなどがたっぷり使われています。海に囲まれて自然も豊かな国なので、野菜もシーフードもよく食べますし、お肉は宗教上の理由からチキンがメインで、乳製品の代わりにココナッツミルクをよく使いますね。インド料理と似ていると思っている日本人の方も多いですが、実際はスパイス自体も違いますし、全くの別物です。

土井 インドに行ったときに食べた、オイリーで甘味があるカレーとは違って、スリランカの方は体によさそうなすっきりしたスパイシーさですね。辛い料理が得意な人はもちろん好きだと思いますし、私みたいに辛いものが苦手な人でも、発汗作用があってクセになる気がします。野菜もチキンもお米もバランスよく食べられるのもまたいいですね。

バンダラ コロナ以前のランチタイムは、ビュッフェスタイルでお料理を提供していたのですが、それだと馴染みのあるカレーばかり選ばれるお客様も多くて。せっかくならスリランカ料理まるごと楽しんでいただきたいので、コロナをきっかけに今はワンプレートの盛り合わせでお出ししています。

ビュッフェスタイルのときに使われていた、料理を温めておくためのチェーフィングディッシュは今も健在で、キッチンにずらりと並んだ様子も格好いい。バンダラさんやスリランカ人のシェフたちが、ここでプレートに料理を盛り付けている。

土井 ビュッフェスタイルもホテルらしくて素敵ですが、たしかにプレートの方がスリランカ料理を知らない人にとってはわかりやすいですね。

バンダラ 実際にスリランカの家でお母さんが作る料理は、ランチと同じようにワンプレートにまとめられているんです。お客さんが来たときや特別なときだけ、食卓にお皿を並べてそれぞれが自由にとっていくスタイル。ディナータイムに複数人で来て、アラカルトをいろいろ頼んでいただけると、そのスタイルを体験できますよ。

ディナータイムに頼めるいろいろな前菜、主菜、カレーなど。右列上から、カレーと一緒に食べるスリランカ産赤米(¥660)、バスマティライスとチキンやゆで卵にスリランカ産スパイスを絡めたビリヤニ(ヨーグルトソース付き¥2,100)、カボチャカレー(¥1,200)。中列上から、茄子とナッツをスパイスと炒めた、カレー付け合わせ用の茄子のモージュ(¥900)、ペッパーが効いた海老カレー(¥1,700)、カレーと一緒に食べるイエローライス(¥450)。左列上から、生地に野菜と牛肉を巻いて揚げたビーフロールス(豆とスパイスのソース付き¥1,100)、前菜のキャロットサラダ(¥800)。

土井 なるほど! 現地での食事は、手を使って食べるんですか?

バンダラ 現地だったら基本は手ですが、『バンダラランカ』はレストランなので、スプーンとフォークで召し上がっていただいてます。ランチもディナーも、セイロンティーなど飲みながら1時間以上ゆっくり過ごして、スリランカの空気を感じながらリラックスしていただけたら嬉しいですね。逆にいえば、休憩時間などにぱっと食事を済ませたい方には、ちょっと不向きかもしれないです(笑)。

スリランカでは基本コーヒーは飲まず、セイロンティーが主流。スリランカの中心部にある、バンダラさんの故郷「キャンディ」で育てられたセイロンティーもお店で飲めて、茶葉のお持ち帰りも可(¥1,800〜)。ちなみに、バンダラさんの実家は紅茶農家なんだとか。
スリランカ人が愛する蒸留酒「アラック」も、数種類お店に揃えている。ココナッツの花から作られており、現地では特に男性が食前酒としてストレートで飲むことが多いそう。グラス¥770〜

土井 時間にも心にも余裕があるときに行きたいですね〜。

バンダラ 去年は、アーユルヴェーダのサロン『サマーディランカ』もお店の近くにオープンさせたんです。実際にスリランカから来日したドクターが施術してくれるので、本格的な体験ができます。お休みの日にぜひ、レストランと合わせてスリランカを全身で感じに来てくださいね。

土井さんからの取材コメント。「レストランに入ったのに、リゾートにワープしたのではないかという空気感。天井が高い店内は光が入ってとても軽やかな装飾。店内に入っただけなのに期待感が高まります。高級ホテルでサービスの腕を磨いたオーナーのバンダラさんは、素晴らしいお仕事ぶりなのにとっても気さく。スリランカのことをなんでも教えてくれます。日本人にとってスリランカ料理はカレーかもしれませんが、いわゆる“カレー”ではありません。たくさんのスパイスが使ってあるお料理、というのがスリランカ料理の正しい説明だと理解しました。スパイシーながらも品のある深い味は、はじめての出合い。ランチもいいですが、夜はみんなで集まっていろんな種類をシェアしてください。美味しい素敵な思い出になること間違いないです!」

インフォメーション

バンダラランカ

東京都新宿区大京町12-9 1F ☎︎03・6883・9607 11:00〜14:30・17:00〜21:30 月・第2、第4火休

HP: bandaralanka.jp

今回取材したお店の国について

スリランカ

◯国土は北海道の0.8倍ほど。
◯インド南部のインド洋に浮かぶ島国。
◯シンハラ人、タミル人、スリランカ・ムーア人の主に3つの人種が暮らす。
◯シンハラ人はシンハラ語、タミル人はタミル語。人種によって言語も異なる。
◯セイロンティーの「セイロン」は、スリランカの旧国名。
◯シンハラ語で美味しいは「රසවත්(ラサイ)」。

場所はここ