フード

異国の店主と土地の味/韓国料理店『韓国料理 慶美』Vol.24

インタビュー・土井光

2023年12月12日

interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム

『韓国料理 慶美(キョンミ)』店主の徐美慶(ソ・ミギョン)さん。

土井光(以下、土井) 都内には何店舗も韓国料理店があり、韓国料理は日本人にとても馴染みがありますが、こちらのお店ではどういったメニューが食べられるのでしょう?

徐美慶さん(以下、徐) 私のお店では、サムギョプサルやキムチなど日本人の方が韓国料理と言われて思い浮かべるようなメニューはもちろん、鴨肉の塩焼きなどの本場で親しまれているメニューも揃えているのですが、それらを宮廷料理式の伝統的な調理法で作っているのが特徴です。宮廷料理というのは、朝鮮王朝時代に宮中で食べられていた伝統料理のことで、食材本来のおいしさを味わえる素朴な味付けなんです。

熟成豚カルビも伝統的な手法で仕込んでいて、砂糖は一切使わずに果物と蜂蜜と韓国から取り寄せた醤油で3日ほどかけて熟成。自然な甘味が肉全体に染み込んでいる。サンチュと青唐辛子、ニンニク付きで1人1500円。※2人前から注文可

土井 どれもしっかり味付けされているけど、優しくて品のある味わいで体によさそうですね。

徐 韓国料理はお肉を頼むと野菜も一緒についてくるのが基本なので、バランスよく栄養も摂れて健康的ですよ。サムギョプサルにもサンチュがついてくるでしょう。

焼き上がった鴨肉は、ニラと酢大根と合わせていただく。酸味のある酢大根でジューシーな鴨肉を包み込むことで、爽やかな食べ心地に。韓国では、脂の多いこってりした食材には必ず、水キムチなどのスッキリした付け合わせがあるそうで、酢大根と鴨肉の組み合わせは徐さんが考案したもの。

土井 徐さんのお肌がツルツルなのも、きっと韓国の食文化のおかげですね!

徐 あら嬉しい! でも、私は1991年に20代で来日して、もう32年も経つから日本に住んでいる時間の方が長いんですよ。当初は今ほど韓国が日本で受け入れられていなくて、悲しい思いをしたこともありました。でも、今ではすっかり日本が私のホームです。韓国の実家に遊びに行っても、すぐ日本に帰りたくなっちゃうくらい(笑)。

土井 韓国のあらゆる文化に日本人が虜になっている今の時代とは違って、いろいろご苦労があったんですね……。それでも来日されたきっかけはなんだったんですか?

徐 日本に住んでいる知り合いが歌舞伎町でオープンした韓国料理屋を手伝うためでした。そのお店には3年ほど勤めて、そのあとに紹介してもらった溜池山王の焼肉屋に13年ほど勤めて、徐々に日本語を覚えていきましたね。

土井 その当時から、いつかは自分で韓国料理店をやりたいという目標を持たれていたんですか?

徐 そうですね。でも、若くして日本へ来たから、実は料理の知識はほとんどなくて、韓国料理の作り方すら身についていなかったんですよ。だから、13年勤めた焼肉屋を辞めてから、都内の韓国料理店で一から修行を始めたんです。焼肉屋の店長が、「営業規模が大きいお店と小さいお店、繁盛しているお店とそうでないお店などいろんな場所で働いて、それぞれのいい部分と足りない部分を見極めて自分のお店作りに活かしなさい」とアドバイスをしてくれたので、10年間は様々なお店を転々としましたね。2012年になって、ついに自分のお店をオープンできました。

オープン当初は韓国人の駐在員なども多い曙橋にお店を構えていたが、「もっと日本人にも来てほしい」という思いで、徐さんの住まいがある赤羽に去年移転オープン。
店内の食器はすべて韓国で買い付けたもの。「食べ物を味わうだけでなく、美味しい匂いも楽しんでほしいので、店内にいろんな臭いが充満しないように掃除や換気も気を付けているんです」と、衛生面も抜かりない徐さん。

土井 このお店の味に関しても、修行で勤めた数々のお店で教わった調理法を自分なりにアレンジされたんですか?

徐 韓国料理といってもお店ごとに味も作り方も違ったのですが、宮廷料理式で作っているお店に勤めてその味に惹かれてからは、それまでのやり方から一変して宮廷料理の伝統的な手法だけで作るようになりました。その時の経験がお店の味の基礎になっています。

雑味がなく、ほどよい酸味の自家製キムチ盛り合わせ。¥000
太めの麺に、あさりやムール貝、海老などの魚介と、玉ねぎや白菜、ニラなどの野菜がたっぷり入った海鮮チャンポン。唐辛子やニンニクで辛く味付けされた、韓国の庶民に愛されるヌードル。¥1,500

土井 お客さんが気持ちよく過ごせるこのお店の雰囲気も、どこか落ち着く美味しい味も、いくつものお店に勤めて修行を重ねたからこそたどり着いたものなんですね。

徐 宮廷料理の調理法は、既存のタレなどを使わずに仕込みをするので正直大変です。でも、誰かが本場の味を知らせていかないと! という気持ちで日々頑張っています。移転オープンもしたばかりですし、もっと日本人の方に来ていただいて、韓国の伝統的な味を楽しんでもらえたら嬉しいです。

土井さんからのコメント。「『韓国料理 慶美』さんのお店の前にたどり着くと、蛙の可愛い置物とアイドルのIUの広告看板が外に出されていて、韓国料理にきたぞー! と気分が高まります。でも、店内に入ると明らかにいつも知っている韓国料理のお店と違う。食べ物の匂いや油の匂いがない。席に着くと、真ん中に置いてあるグリルもとっても清潔。食器や机の上に置いてあるものも綺麗にされていて、全ての道具の管理をきっちりされている。メニューを見る前から期待は膨らみます。チヂミは真緑になる程のニラを使い、ケランチムも卵が沢山。食材をふんだんに使い、豪快ですが丁寧に作られているお料理に感動しました。優しい手作りキムチも、乳酸の香りが心地いい。お母さんの笑顔で美味しいお料理と焼肉を頬張るのはなによりの贅沢だと思います。みなさんぜひ赤羽まで足をのばしてみてください。」

インフォメーション

韓国料理 慶美

◯東京都北区赤羽2-9-1 TKCビル1F ☎︎03・6454・4149 11:30〜15:00・17:00〜22:30(日曜日のみ通し営業) 火休

今回取材したお店の国について

大韓民国

◯面積は日本の1/4
◯北に北朝鮮がある朝鮮半島の南半分に位置する
◯首都のソウルは羽田から飛行機で約2時間半前後
◯16世紀に韓国に唐辛子が伝わる前は、白くて辛くないキムチが作られていたらしい
◯韓国語でおいしいは「맛있어요(マシッソヨ)」

場所はここ