カルチャー

濱口健は『東京五輪音頭』の“三波春夫プロ映画”っぷりに戸惑った。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.35

2026年10月31日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回は絵描きの濱口健さんが、知られざる日本映画の珍品『東京五輪音頭』を紹介してくれた。


今日の映画
『東京五輪音頭』
(小杉勇監督、1964年)

『東京五輪音頭』
DVD発売中 3,800円 (税抜)
日活株式会社 販売元 株式会社ハピネット・メディアマーケティング 
(C)1964日活株式会社

1964年の東京。中央卸市場にある「藤源」の一人娘ミツ子は、市場でも町内でも人気の看板娘だ。しかし、そんな彼女にも悩みがあった。水泳のオリンピック候補であったが、親代わりの祖父に反対されてしまったのだ。市場に通うかたわら、水泳の練習に励む彼女だったが……。監督は俳優としても知られる小杉勇が務めている。


CSの日本映画チャンネルを観るようになって、かれこれ20年くらい経つのかな。DVD化もされてないような変な映画と出合えるのが面白くて、少しでも引っかかるタイトルが放送されたら片っ端から観るようにしています。

『東京五輪音頭』も、つい最近CSで発見した映画。1964年の東京オリンピックに合わせて発表された三波春夫の同名曲にちなんだ作品で、最初はオリンピックを盛り上げるための青春スポーツ映画なのかなと思って観始めたんですよ。実際、水泳の才能に秀でた女の子が祖父の反対を押し切ってオリンピックを目指す姿がストーリーの主軸ではあるんですが、話が進んでいくうちに気付かされるんです。「これはどうも違うぞ」と。

というのは、三波春夫がそのストーリーを上回る存在感を示してくるからなんです。劇中には三波春夫本人と、彼自身が演じる寿司屋の大将が出てきて、「本人なのか? そっくりさんなのか?」みたいな微妙にややこしいギャグを挟んできたりもするんですが、とにかく三波春夫のプロモーション映画としての主張が凄まじい(笑)。確かに、当時の彼の圧倒的なオーラや歌唱力、それから時代の熱気みたいなものはストレートに伝わってくるんですけど……いびつな映画ですよね。

エンディングも謎なんですよ。三波の歌謡ショーが終わった後、登場人物たちが東京の街を歩くんですけど、なぜか全員晴れやかな顔をしてない。これからオリンピックで盛り上がっていこうという時期の映画なのに、なんだか浮かない表情のまま「終」って出るんです。なんでこの顔で終わったのか……。

僕は巷でイケているとされるものに興味が湧かないんですよ。それよりも今観ると「これどうなんだ?」っていうような昔のものを、あえて楽しむタイプというか。そんな自分にはぴったりの映画でしたね。だから、『ポパイ』向きかどうかはわからない珍品ですが、こういう機会なんで紹介させてもらいました。自分の場合は絵を描くときもそうなんです。昭和の映画スターとかをよくモチーフにするんですが、そういう人が存在したってことをちゃんと残さなければいけないし、残すような絵描きもいないだろうっていう、歪んだ使命感がいつもあるんです(笑)。

語ってくれた人

濱口健は『東京五輪音頭』の“三波春夫プロ映画”っぷりに戸惑った。

濱口健

はまぐち・けん|主に音楽などのポップカルチャー、サブカルチャーをモチーフにした絵画作品を展開する絵描き。その傍ら、雑誌などにイラストも提供している。近年の展示に、根本敬との2人展「カラトリヲ2 ~HAPPY FAMILY~」など。また、自身のオンラインショップも運営中。

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