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ひとり、一人、独り/文・上白石萌歌

ひとりがたり Vol.31

2026年5月30日

ひとりがたり


photo & text: Moka Kamishiraishi
illustration: Jun Ando(uruo)

10代のまんなか頃は、ひとりでいることがなんとなく辛かった。

一概に“ひとり”といってもさまざまな“ひとり”があるが、実は本当の意味での“ひとり”の素晴らしさに気がついたのは、大人になってからの話だ。

昼休み、教室の机に突っ伏して眠るふりをする自分が、放課後、ランニングをするダンス部集団に逆行してひとり自転車を押して帰る自分が、けっこう恥ずかしくてみじめで嫌だった。教室にいるだれとも本当の心で話せる気がしなかった。いつだれとどこで話していても、ずっと胸の奥の方に“孤独“というずっしりとした重石が居座り、いくら笑っても大声を出してもそれはぴくりともしなかった。寝ても覚めてもわたしの心には薄がかったモヤが巻きつき、なかなか離れてくれなかった。

これが俗にいうシシュンキ、というものなのだろうか。何度もそう割り切ろうとした。だとしたら幼い頃から思い描いていた、キラキラとした夕暮れの湖畔のような青春とは程遠い。大人になるということは、心にあるこの重石のようなものがどんどん肥大してゆくものなのだと思うとくらくらした。

とくに、教室という場所では息が詰まることが多かった。仲間はずれにされていたわけではないし、ともだちと呼べる人もいたが、なんだかずっとうまく心と心で手を取り合うことができないような気がしていた。大人になった今でも、どうしてそんなにもがんじがらめになっていたのかはっきりとはわからない。きっとだれにだって得体の知れない孤独と闘っていた季節があるんじゃないかと思う。

わたしが思うに教室は、ちいさな離島の集まりだ。目には見えない境界線で島々が分けられ、それぞれが独立している。2人だけのちいさな島があれば、大所帯のでかい島もある。たまに島から島への引っ越しや合併もあり、それぞれの島の暗黙のしきたりを遵守しなくてはならない。複雑なコミュニティが絡み合うその場所で、わたしはどうしてもどの島にもうまく属することができず、ただただそれを海にぷかぷかと浮かびながら見つめているだけだった。

今思えば、何をそんなに思いなやむことがあるのだろう、あなたはあなたでいいじゃない、と背中を叩いてあげたいような気持ちだが、当時のわたしにとっては生きるか死ぬかくらいの大きな問題だった。どうやってこの海をうまくやり過ごそうか、そんなことばかりを考えながら、うじうじと毎日を踏み潰してゆくしかなかった。

そんなときに、うっかりインターネットでこんな言葉を見つけた。

つまり、クラスメートに友達いらないってこと。「クラスメート」と「友達」は違うんだよ、うん。たまたまさ、同じ年に生まれて、近くに住んでただけじゃん。それはさ、例えば、渋谷から山手線に乗って、「はい、今この瞬間この電車に乗ってる人はみんな友達」って言われるのとおんなじだよ。そんなの、「仲良くできるかどうかは自信ねえな」って思うでしょう。当たり前じゃないですか。クラスメートと仲良くなんかできるわけないんですよ、うん。それ普通。友達なんかできるわけない。でも、学校っていうのは何をしにいくとこかっていうと、仲良くもないし友達でもない奴と、「うまくやること」を勉強しにいくんです。

https://news.kodansha.co.jp/comics/20160628_c01より)

われらがブルーハーツ、甲本ヒロト氏の言葉だ。友達なんかできるわけない、とかちょっとチクリとハートを刺されるような気持ちにもなるが、当時のわたしは妙に納得してしまった。

たしかに学校というものは、クラスメイトというものは、同じ車両にたまたま乗り合わせたようなものなのだ。同じ時代を同じ歩幅で生きているというだけで顔を合わせることになったひとたち。うつくしく言えばウンメイ、のようなものだが、やっぱりみんなと心から通じ合うことはなかなかに難しい。だがしかし、同じ車両に乗り合わせた同士、穏便に、うまくやることはできるはずだ。それからのわたしは徐々に淡い期待も抱かず、ひとりも、みんなも、なんとか楽しめるようになっていった。

教室という車両を何度か乗り継ぎ、大人になったいまはすごく呼吸がしやすい。そして心から”友達”と思えるひとにも、大人になってからめぐり逢うことができた。誰かといたいときはいてもいいし、ひとりを胸にたっぷりと吸い込んでもいい。きっと”ひとり”をじぶんなりに受容してゆくということが大人になるってことかもしれない。

ひとり、1人、独り…。
「一緒にいたい」と「ひとりでいたい」、「さびしい」と「さびしくない」のあわいを行ったり来たりしながら、ゆかいに歳を重ねてゆけたら。

ひとこと
これまでさまざまな“ひとり”について語ってきたひとりがたりですが、今回はいつもとはすこし違う視点で、いろいろと思い出しながら書いてみました!
たったいま10代を生きるみなさんに、そしてかつて10代だったみなさんにも、どうか届きますように。

上白石的テーマソング:風化する教室 / きのこ帝国

プロフィール

ひとり、一人、独り/文・上白石萌歌

上白石萌歌

かみしらいし・もか|2000年生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。12歳でドラマ『分身』(12/WOWOW)にて俳優デビュー。ミュージカル『赤毛のアン』(16)では最年少で主人公を演じた。映画『羊と鋼の森』(18/東宝)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18/TBS)、『教場Ⅱ』(21/フジテレビ)、『警視庁アウトサイダー』(23/テレビ朝日)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、『パリピ孔明』(23/フジテレビ)、『イグナイト –法の無法者–』(25/TBS)、『パンダより恋が苦手な私たち』(26/NTV』、映画『366日』(25/松竹)など。2017年よりadieu名義で歌手活動も行っており、5枚目のEP『adieu 5』が絶賛発売中。
5月30日にはワンマンライブ「adieu Live 2026 bleuir」がKT Zepp Yokohamaにて開催される。

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