ファッション

渋⾕『blue room』のMotoi Hatsuki が作った、唯⼀無⼆のエア マックス。

3Dプリンタでエア マックスを作るナイキの新プログラム「Air Works」のお話。

2026年8月7日

photo: Nozomi Urayama,
text: Neo Iida

2026年5⽉、世界8都市のデザイナーがオレゴン州ビーバートンのナイキ本社に集まった。ナイキが今年⽴ち上げた、研究・開発・デザインを担うプログラム「Air Works」に参加するためだ。デザイナーたちはナイキのメンターやデザイナーと協働し、それぞれが暮らす街やコミュニティ、⾃⾝の経験を⼿がかりに、3Dプリントを使って新しいエア マックスを作り上げた。

この壮⼤な構想に東京代表として参加したのが、渋⾕の古着屋『blue room』を営むHatsukiさんだ。7⽉末、完成したエア マックスが店に届いたと聞いて、さっそく渋⾕に向かった。

「いや、めちゃくちゃ履きやすいですよ」。Hatsukiさんはデニムに⾃作のエア マックスを履いて出迎えてくれた。アッパーからソールまでがひと続きに連なり、シューレースも縫い⽬もなく、⾜全体を包む流線形のフォルム。よく⾒ると3Dプリントならではの積層の表情がうっすらと残っていて、場所によって網⽬の密度や厚みが異なり、通気性や柔軟性がしっかりと作り分けられているように⾒える。エア バッグは⻩⾊と⿊の2⾊使いだし、これは⾒たことのないエア マックスだ︕ Hatsukiさんを捕まえて詳しく聞いてみよう。

ナイキのデザイナーと2人3脚で作った世界でひとつだけの靴

——完成したHatsukiさんのエア マックス、めちゃくちゃカッコいいですね。

Hatsuki 提案するだけならタダだと思って、入れたいものは全部入れました(笑)。最初から、インソールに昔のナイキにあった「Limited Edition」のロゴを入れたいとか、サイドに「AIR」の文字を入れたいとか希望を伝えて。そこから「これはできる」「これは難しい」と整理してもらいました。デザイン画どおりではない部分もありますが、僕としては100点です。

——「3Dプリントで靴をつくる」と聞いてもなかなかピンと来ないところがありますが、どんなふうに作り上げていったんでしょう。

Hatsuki ナイキから言われたのは、自分が過ごしてきた経験や環境、街をイメージすることでした。それで、まずは僕が好きなものを集めたムードボードを作ったんです。はじめに3Dプリント製造技術を持つZellerfeld(ゼラーフェルド)社とナイキが作ったボディがあり、そのうえで好きなデザインを落とし込んでいく形ですね。僕が好きなのは1998年から2003年頃のモデルで、今回はエア マックス テイルウィンド Vを中⼼に⾊んなモデルの要素を抽出して合体させました。

̶̶確かにこの特徴的な模様はテイルウィンド Vを感じさせますね。ではムードボードを元にデザインを起こしていったんですか?

Hatsuki 僕は全然絵が描けないので、ペアを組んだナイキのデザイナーの方に「こうしたい」と伝えてスケッチに起こしてもらいました。僕が話した言葉を拾ってメモしてくれたり、それをAIでビジュアルにしてくれたり。デザイン画がどこまで実現可能かを詰めながら、二人三脚で仕上げていきました。

——デザイン画もバージョンがいくつかありますね。最初からHatsukiさんのなかに作りたい形がはっきりあったのがわかります。このデザイン画をもとに、3Dプリンタが靴を作るわけですよね。ということはエアに素材を吹き付けて……?

Hatsuki 僕も実際に3Dプリンタが動いているところを見たわけじゃないんですけど、接着剤を使ってくっつけたわけじゃないので継ぎ目がない。積み上げて創られた跡が少し残っているのも3Dプリントならではだと思います。

――デジタルな手法ではあるけれど、このクラフト感がなんともいえないですね。

Hatsuki そうなんですよ。しかもちゃんと要所要所に通気性のいい部分や薄い部分があるんです。そこは3Dデザイナーの方が、シューズとして成立するように細かく設計してくれています。

古着屋としての知見と、好きなナイキのデザインを詰め込んだ

——未来的な製法ですが、ディテールには昔のナイキの要素がかなり入っているんですね。

Hatsuki テイルウィンド 5の他にも、エア マックス 98TLや、エア ズーム ドライブなど僕が好きな時代のナイキからインスピレーションが盛り込まれています。踵の「AIR」は、1990年代後半から2000年初頭にかけてのモデルに使われていたクラシックなフォント。最新のモデルに昔の「AIR」ロゴの組み合わせはギャップがあって気に⼊っています。あと、このエアバッグはエア マックス 95のものを使ってるんですよ。まずこれが他にはない組み合わせで、さらに前と後ろでエアの⾊を変えているんです。

——あっ、本当だ。前は黒で、後ろがイエローですね。これはどうして?

Hatsuki 東京という街を観察したとき、僕の中では⿊と⻩⾊、そしてグレーが東京の⾊だと思ったんです。帰り道に渋⾕駅の周りを⾒ると、真っ⿊いビルの窓にぽつぽつと明かりがついていて。出⼝の表⽰やエスカレーターだけ⻩⾊にして、踵に⽬が⾏くようにしています。その⽅が早さを感じると思ったので。

——東京は東京でも、夜の東京の風景を。

Hatsuki そうですね。もしもう⼀⾊使えるならグレーも⼊れたかったんですけど、3Dプリントによる⼀体成型なのでボディの途中で⾊を切り替えることができないらしくて。将来的に技術が向上したら⾊の切り替えも可能になるでしょう。

——スウッシュが⼩さく⼊ってるのもテイルウィンド Vを彷彿とさせますけど、位置がだいぶつま先寄りにあるのが特徴的です。

Hatsuki 僕は裾の広いパンツを穿くことが多くて、靴に被せるように穿くので、スウッシュはパンツに隠れないつま先のほうに置きたかったんです。⼩ぶりなスウッシュのほうが好きだし、そうすることでアッパーをデザインできる範囲も広がって、より機能的に⾒えるかなと思ったのもありますね。

——見れば見るほど細かいこだわりがあるんですね。

Hatsuki 内側にはモールス信号が⼊ってるんですよ。

――わ、確かにツーテンテン、みたいな模様があります。これはどういう意味なんですか?

Hatsuki 昔、ヨーロッパで流通していたナイキのウェアに、モールスコード⼊りのタグが付いてるラインがあったんです。昔のエア マックスにもアッパーにモールスコードが⼊った「エア マックス ウィリー」というモデルがあって、僕はその要素がすごく好きで、ぜひ⼊れたいと思いました。このコードは「26」を⽰していて、2026 年という意味と、僕がずっと使っているInstagramのアカウント名「htk2626」を重ねています。両⾜で「2626」。⾃分のシグネチャーナンバーみたいなものですね。

——Hatsukiさんのナイキ愛が感じられます。実際に3Dプリントで靴を作ってみて、どんな可能性を感じました?

Hatsuki すごく面白かったです! チャンスがあればまたやってみたい。今回は一体成型なので、色の切り替えや素材の組み合わせには制約がありましたが、逆に普通の靴づくりで、いろいろな素材やパーツを自分で指定することもやってみたくなりました。靴をデザインすること自体にすごく可能性を感じています。

——いろんなリソースを詰め込めるのは、いろんな服を見てきたHatsukiさんだからこその強みですよね。シューズデザイナーではなく、古着屋が生んだ一足というのがすごくカッコいいなと思いました。

Hatsuki 古着屋には、過去のものを編集して新しく見せる、という側面があると思うんです。今回のデザインにも、その感覚を入れることを意識しました。古着屋をやっていなかったら、この靴を作る発想にはならなかったと思います。古着屋をやってきたからこそ得られたインスピレーションはかなり大きかったですね。

——他の参加者の皆さんのデザインも気になりますね。

Hatsuki ⼀緒に制作をしているとき、なかには「これは本当にエア マックスなのか?」と思うくらい、エア マックスの概念を超えた靴を作っている⼈もいました。それぞれ異なる環境、経歴を持つ⼈々が集まっているからこそ制作のアプローチがまるで違いました。どんなふうに出来上がるのか今から本当に楽しみです。

黒いボディの奥には、いくつもの時代のデザインが息づいている。渋谷という街で世界各国の服やシューズに触れてきた古着屋のHatsukiさんだからこそ、その膨大なアーカイブを編集できたんだ。3Dプリントという新しい技術には可能性が広がっていて、さらに作り手側にアイデアや熱い思いがあれば、こんなにも魅力的なシューズが出来上がる。ナイキがAir Worksでかたちづくる未来を、もっともっと見てみたい。

インフォメーション

Air Works

2026年にナイキが始動した、エア マックスの未来を考える研究・開発・デザインプログラム。初回となる今年5 ⽉のプログラムでは、東京、ロンドン、北京など世界8 都市からデザイナーを招き、ナイキのデザイナーやエンジニア、3Dプリント技術を持つZellerfeld との協働によって、それぞれの街やコミュニティを表現したシューズを制作した。完成したモデルは来年のエア マックス発売開始40周年を迎える「エア マックス デー 2027」に向けて、各⽉ごとに各都市で披露される。

2026年
7⽉/Motoi Hatsuki(東京)
ヴィンテージ・スポーツウェアストア『blue room』創設者。

8⽉/Tasnim(ロンドン)
中古素材を⽤い、⾃⾝のルーツやロンドン、⼥⼦フットボールから着想した服を制作。

9月/Marc Su(北京)
文化的背景を素材主導のデザインへ落とし込むインディペンデントデザイナー。

10月/Masyn(ロサンゼルス)
日常的に身につけられるアパレルを手がけるデザイナー。

11月/Diya Joukani(ムンバイ)
インド刺繍と現代的なシルエットを融合する〈DiyaDiya Studio〉主宰。

12月/Jose Wong(上海)
ノスタルジアやインターネットカルチャー、日常の記憶を取り入れた作品を制作。

2027年
1月/Yams(パリ)
金属を曲げたりシューズをカットしたりする表現で知られるデザイナー。

2月/Omi(ニューヨーク)
エアブラシ、壁画、彫刻などを横断するマルチディシプリナリーアーティスト。


blue room

1990年代から2000年代のストリートウェアや裏原宿ブランドを中心に扱う、渋谷のヴィンテージ・スポーツウェアストア。2019年に原宿でオープンし、2021年に渋谷へ移転。○東京都渋谷区渋谷2-4-10 鈴木ビル102 13:00〜20:00、不定休

Instagram
https://www.instagram.com/blue_room___/