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○月△日/文・上白石萌歌

ひとりがたり Vol.10

2024年11月30日

ひとりがたり


photo & text: Moka Kamishiraishi
illustration: Jun Ando

○月△日
ドッジボールで役所広司さんを外野から当てる夢をみて、飛び起きた朝。お会いしたこともないのになぜだろう。そしてなんだろう、このじんわりとした後ろめたさは。この前『PERFECT DAYS』観たばっかだからか。

○月○日
いまポジティブだから外から聞こえるクルマの音が波の音に聞こえる。

○月×日
夏に備えて、軽くて優秀でちょっといい日傘を買った。あまりの軽さに、買ったデパートのトイレにさっそく忘れて帰ってくる。

○月◎日
わたしの心は不安が好きだなー。ある不安を食べ終えたと思えばまたすぐ不安を欲しがって食べるよね、もうお腹いっぱい、頭取って寝たい。

○月◻︎日
マリオカート、なぜかワリオこうざんだけ強い。

わたしの普段からつけている日記の一部である。

中学2年生の時に始めた寝る前の日記の習慣を、もうなんだかんだ10年続けている。きっかり毎日というわけではなく、書きたいと思ったら書く程度だが、気がつけば立派に継続できていた。

1日の終わりに、今日という日をひとりでじっと見つめ直し、思うままにペンを走らせる。目まぐるしく過ぎゆく毎日のなかで、このベットの隅っこの時間だけはのびやかで静謐で、ちゃんと呼吸のできる場所。わたしにとっていつのまにか給水所のような、必要不可欠なものになっていた。

わたしが大切にしているのは、日記を書く上でルールを作らないこと。毎日かならず書く必要はなく、気まぐれに、思い立った時に日記帳をひらく。具体的な出来事を3行くらいで綴る日もあれば、心に渦巻くものをページいっぱいに書き殴る日もある。あとから読み返すと、日記を通して自分の定点観測ができるような気がする。

日記のいいところは、ペンを走らせることで、日々自分の胸の奥に生まれる数々の感情のすがたかたちを、飴玉を舌の上で転がすように確かめられることだ。

わたしたちは生きているなかで生まれ続ける感情を、そこまでちゃんと咀嚼しきれていないように思える。悲しいことを悲しい、不安なことを不安だと自分のなかで認めてあげることは、たやすいようでなかなか難しい。また、名前のつけられない、得体の知れない気持ちが胸のなかを占めることだってしょっちゅうある。漠然と霧がかった心も、書いてゆくうちにひとつひとつの気持ちの輪郭があらわになり、気がつけばほんのり晴れやかになっていることが多々あるのだ。

考えていることを書き出す、というよりかは、書き出すことで自分の考えていることをあぶり出すことができるような気がする。

数えると10冊をゆうに超えている日記帳。インクをにじませ、でこぼこに積み重ねてきた、わたしだけが知るわたしの心の歴史。また明日からどんな文字をここに踊らせてゆくのだろう。不格好でもぐちゃぐちゃでもいいから、いつかそのひとつひとつを愛おしく抱きしめられたら。

ひとこと
11月27日にアルバム「adieu 4」がリリースされました! ぜひたくさん聴いてください。

プロフィール

○月△日/文・上白石萌歌

上白石萌歌

かみしらいし・もか|2000年生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。12歳でドラマ『分身』(12/WOWOW)にて俳優デビュー。ミュージカル『赤毛のアン』(16)では最年少で主人公を演じた。映画『羊と鋼の森』(18/東宝)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18/TBS)、『教場Ⅱ』(21/フジテレビ)、『警視庁アウトサイダー』(23/テレビ朝日)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、『パリピ孔明』(23/フジテレビ)、『滅相も無い』(24/MBS)など。25年1月10日公開の映画『366日』に出演。adieu名義で歌手活動も行う。

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