TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】旅に出なければ、わからない。

執筆:デリヤ・エスデヴレット

2026年7月21日

PATHでのインターンシップも終わりに近づき、気づけば私は5か月以上アジアを旅していた。

もともとアジア料理、とくに日本料理は大好きだった。でもその一方で、トルコ料理が恋しくなっていた。

旅を続けるなかで、ひとつ気づいたことがある。アジアには世界中のさまざまな料理がしっかりと根付き、多くの人に知られ、親しまれている。でも、トルコ料理だけは少し違った。ほとんどの人が知っているのは「ケバブ」だけだった。

少し自分たちへの反省も込めて言えば、それは私たちにも原因があると思う。ドネルケバブは手軽に利益を生む料理として扱われることが多く、本当に丁寧につくられたものに出会う機会は意外と少ない。その状況に、私はずっともどかしさを感じていた。

そんな頃、東京で出会った友人たちが、毎年開いているホームパーティーに招待してくれた。

せっかくなら、その日は私が料理を作りたい。

そう伝えると、みんな快く受け入れてくれた。

作ったのは、ごく普通の家庭料理だった。いくつかのオリーブオイル料理、メゼ、そしてボレキ。トルコなら、どこの家庭でも食卓に並ぶような料理ばかりだった。

でも、その日の反応は想像をはるかに超えていた。

参加していた人たちの多くは、レストランのシェフやホテルのF&Bマネージャーなど、食に携わる仕事をしている人たちだった。

食事が終わる頃、一人がこう言った。

「せっかくデリヤが東京にいるんだから、一緒にポップアップをやってみたら?」

そのひと言が、すべての始まりだった。
ポップアップをやりたいという気持ちはあった。でも、どこで、どうやって、誰とやるのかは何も決まっていなかった。

それから一週間ほど経ったある日、世田谷の小さなカフェに入った。
店内で一人座っている男性を見た瞬間、私は友人に「この人はきっとシェフだよ」と言った。

シェフには、シェフの手がある。

話しかけようと思ったその時、逆に彼のほうから声をかけてくれた。
そこから自然に会話が始まった。
予想どおり、彼もシェフだった。

ヨーロッパのミシュラン星付きレストランで経験を積み、当時は東京のレストランで働いていた。そして私たちを自分の店へ招いてくれた。

話をしているうちに、私は率直にこう切り出した。

「トルコ料理のポップアップをやりたいと思っています。」

彼は少しも迷うことなく、「ぜひやりましょう」と言ってくれた。
こうして、私たちは初めての場所を手に入れた。
でも、その時点でそれ以外は何もなかった。

メニューは私が考え、友人のMet KazamaとRei Kazamaがクリエイティブとデザインを形にしてくれた。
そうして生まれたのが、「Lokanta」だった。

「Lokanta」とは、トルコで人々が日常的に通う、家庭料理を気軽に楽しめる食堂のことだ。

私たちが届けたかったのも、まさにそんなトルコの日常だった。
初めてのイベントの日、多くの人が私にこう言った。

「トルコ料理を食べるのは人生で初めてです。」

そしてイベントが終わる頃には、ほとんどの人が同じことを口にしていた。

「トルコ料理って、こんなにおいしかったんですね。」

「どうして今まで食べる機会がなかったんだろう。」

それらの言葉こそが、「Lokanta」を続けていこうと思った理由だった。
その後まもなく二回目のイベントを同じお店で開催した。

そのイベントで作った料理を少しずつ詰めてPATHの原さんに届けた。
後日、「トルコ料理を本当に好きになりました」と連絡をくれた。

数か月後、PATHでポップアップイベントをやれることになり、
原さんと一緒にクラシックなトルコ料理を作った。

仕込みをしながらトルコ料理について話していく中で、原さんも少しずつその魅力を知っていったようだった。

イベントを重ねるたびに、東京では「Lokanta」の名前とともに、トルコ料理への興味も少しずつ広がっていくのを感じた。
私がトルコへ戻ってしばらくした頃、原さんから一本のメッセージが届いた。

「トルコに行って本場のケバブを知りたい。トルコ料理をもっと深く知りたい。」

私はイスタンブール、アダナ、ガジアンテプの3都市を巡るケバブ旅を計画した。
何度も訪れてきた街だからこそ、本当に行くべきケバブ店やレストランだけを選んだ。
一週間かけて、朝から晩までケバブ屋やトルコ料理店を巡りトルコ料理を学ぶ旅をした。

(次回へ続く)

プロフィール

Derya Esdevlet

デリヤ・エスデヴレット|1997年、トルコ生まれ。16歳で料理の世界に入り、トルコ国内外のレストランで経験を積む。現在は「LOKANTA」を主宰し、トルコ料理を軸に日本の食材や文化を取り入れた表現を探求。東京やロンドンを中心にポップアップレストランやコラボレーションを行いながら、新しいトルコ料理の可能性を発信している。

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