カルチャー
カタログで振り返る50年のスキーヒストリー。
WHOLE CITY BOY CATALOG
photo: Outdoor Recreation Archive (catalog), Shin Hamada (portrait)
text: Miu Nakamura
2026年7月 951号初出
2026年8月27日
ひとくちにスキーと言っても、競技的な滑りが理想だった時期もあればライフスタイルの一部として愛されていたときもある。POPEYEが誕生した頃から現在まで、スキーとカルチャーの関係性は少しずつ変化してきた。アウトドアのギアカタログ、広告などをアーカイブする機関「Outdoor Recreation Archive」キュレーターのクリントと広報のチェイスが、1970年代から2020年代の時代を象徴するビジュアルを選んでくれた。スキーカルチャーはこの50年でどのように変化してきたのか視覚で感じてみよう。
’70s 『skiing the rockies』 Album(1974)
クリント
アメリカの〈Gramm Records〉からリリースされたアルバムは、ポパイも創刊された’70年代のムードを隅々にまで詰め込んだ1枚。トラックには当時人気だったパークシティ、ジャクソンホール、アスペンといったスキーエリアやリゾートの名を冠した楽曲が並び、曲調はジョン・デンバーのような山岳風景やアウトドアライフを歌い上げたシンガーソングライターを思わせるフォーク調。ジャケットデザインも高揚感に溢れていて、自由な空気感がクールだよね。
チェイス
環境への意識も高まっていた時期だからか、壮大な自然への意識が節々に垣間見えるね。山や森、太陽みたいな景色がスキーヤーとほぼ同列にレイアウトされていて、自然界へのリスペクトや調和への意識も感じる。それと同時に右上にはジェット旅客機も配置されていて、真逆な産業的発展の片鱗も見え隠れしているアンバランスさが面白い。
クリント
ちょうどこの時期、飛行機の長距離飛行が可能になって以前より気軽に雪山に行けるようになったんだ。豪華な機内サービスを堪能しながらロッキー山脈を超える旅はまさに憧れ。スキーはまさに最先端でリッチなライフスタイルの象徴だったわけだ。
’80s 〈Atomic〉 Poster(1988)
クリント
‘80年代といえばアルペンスキー。〈Atomic〉の赤に白ロゴの細長いスキー板はその象徴的な存在だったし、ポスター中央に描かれた1988年のスーパーGワールドカップチャンピオンのミケーラ・フィジーニももちろん履いている。でもここで重要なのは、彼女が「1人の選手として」というより、「スピードそのもの」を表すアイコンとされているということ。ライフスタイルやレジャーとして、というより、スポーツや競技としての側面が強くなりつつあったんだ。スキーヤーの姿勢、構図、色彩など、“速さ”があらゆる角度で表現されている。
チェイス
「FIRST IN RACING, FIRST IN PERFORMANCE(レースでも性能でもナンバーワン)」というコピーにも表れているね。ビジュアルの随所には当時のデザイン的な潮流を感じるよ。
クリント
1980年代らしい、強烈なコントラストが効いた配色、幾何学的な構図、反復するパターンが使われたメンフィス・デザインの視覚効果が抜群。すべてが過剰で、ぶつかり合う緊張感が、レース当日のゲレンデの張り詰めた空気を彷彿とさせる。こっちまでドキドキしてきた。
’90s 〈Head〉 Catalog(1994)
クリント
‘90年代になると、さらに速くて派手でアグレッシブなスキーの流れがさらに加速する。〈Head〉 のカタログに写るダイナミックな雪飛沫や険しい表情のスキーヤーはまさにその様子を如実に表している。ヘルメットを被るようになったというのも大きな変化。高度で過激なスポーツへと進化を遂げる中で、安全装備も徐々に当たり前のものになっていったんだ。
チェイス
「If Mountains Had Doors We’d BLOW Them Off(もし山にドアがあるなら、吹き飛ばしてやる)」ってコピーもインパクト大。画面から今にも飛び出してきそうな勢いだ!
クリント
その流れと時を同じくして、スキー界にはVHSムービーの黄金期の波も到来。ウォーレン・ミラーをはじめとする映像作家らが撮影した、複雑な地形や断崖絶壁、大胆なエアトリックを映し出したスリル満点の作品は、若い世代にも人気だったんだ。
’00s 〈Head〉 Catalog(1994)
クリント
〈サロモン〉の1999/2000年のカタログは、ミレニアム時代の幕開けにふさわしいデザインや技術がディティールにまで詰め込まれている。空中を舞うスキーヤーが中央にいるのは同じだけど、その周りの白い波型のラインは新しいテクノロジーへの希望に満ちたデジタル時代の到来を想起させる。一方で、ページの下部に並ぶセピア色のサムネイルは20世紀的な温もりも感じて、過去と未来の対比が強調されている。
時代が移り変わる様子はロゴにも表れている。それまでのブロック状の「S」マークに代わり登場したのが、1990年代後半から2000年代初頭にかけて流行した、〈サロモン〉の渦巻き状のオールドロゴだ。滑らかで有機的な「ブロブジェクト」と呼ばれるデザインの代表的なもので、生物とテクノロジーが溶け合うような世界観は、’80年代や’90年代のシャープで硬質なグラフィックとは明確に異なるアプローチが取られているんだ。
チェイス
変わらない雪山を前にしても、デジタル技術の発展という時代の潮流によって、スキーの価値観や体験もぐんと変わっていく様子がわかる。現代のオンライン世界との中間的な地点にあるのを感じるよ。
’10s snowbird “One Star“ Campaign(2017)
クリント
アメリカ・ユタ州にある世界最大のスキーリゾート『snowbird』の2017年のキャンペーンは、1人のスキーヤーによる低評価レビューから始まったんだ。広告には腰まで積もった深雪を豪快に滑るスキーヤーが映し出されているけど、その姿はほとんど雪に隠れている。見開きの左手には「がっかりした……もっと圧雪バーンを滑れると思っていた」という星一つのレビューが添えられている。ソルトレイクシティのクリエイティブエージェンシー「Struck」とともに調査したオンラインレビューをビジュアルと組み合わせることで、複雑な地形や難しいコース、深いパウダーの魅力を証明する逆説的なギミックを使ったんだ。
チェイス
ネガティブなコメントをそのまま使っちゃうなんてかなり大胆。オンラインレビューやSNSをはじめとしたユーザー発信のコンテンツが、実際の体験と同じくらい人々の印象を左右するようになってきた頃。リゾートにとってマイナスとなりかねない意見を逆手に取ることで、ブランドの個性やこの場所でできる体験が明確にイメージできる。ブラボーな広告だね。
’20s 『Hard Pack』Magazine(2023)
クリント
山を舞台にしたスキー広告は姿を消し、代わりに現れたのが街中でスキーを表現したビジュアル。写真家のサミュエル・ブラッドリーが撮影した『Hard Pack』の2023年秋号の表紙では、フル装備のスキーヤーがロンドンの街角をストックを手に歩く姿が写されている。1909年に北極点へ到達した黒人探検家マシュー・ヘンソンからインスピレーションを得た作品なんだ。
チェイス
ヴィンテージの木製スキーやクラシックなギアの上に現代の高機能アウトドアウェアを重ねたスタイリングは、ハイプビースト的な要素も感じるし、アウトドアファッションを街中で取り入れるゴープコアやアスレジャーの流行もよく表れているね。
クリント
高機能ウェアは日常着の一部になりつつあったし、同時にラグジュアリー界にも大きな影響を与えていた。「どこで、どのようにアウトドアを楽しむのか」というコンセプトがファッション界の広い層に広まっていたんだ。脈々と受け継がれてきたスキーカルチャーが辿り着いた現在地をまさに象徴する一枚。ギアやウェアも、アイデンティティを表現する手段だったわけだ。
クリント
確かに。そういう意味では、スキーは前よりももっとライフスタイル的な存在になったと言えるかもね。
教えてくれた人
Outdoor Recreation Archive
アウトドア・リクリエーション・アーカイブ|ユタ州立大学の図書室に併設されたギアカタログや広告をアーカイブする機関。1万5000点を超える資料を収集。中には廃業したブランドのものも。
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