CULTURE

乗れないサーフボードを作ること25年。

ミニチュアサーフボード作家を訪ねて

2022.04.04(Mon)

photo: Keisuke Fukamizu
text: Toromatsu

 高価なものや、大きすぎるもの、非現実的なものなどに対する所有欲をミニチュアで満たす、というのはいくつにもなってもあること。しかしそれが車や飛行機なら容易に想像できるが、その情熱をサーフボードに燃やす人物を発見した。乗りもの、という点では遠からずかもしれないが、これがまたそれに負けずとも劣らないほどマニアックな世界なのだ!

 湘南方面から静岡下田へと続く海沿いの国道135号を走っていると、伊豆高原の酒店『川奈酒販』の外観が目に留まった。そこの窓に大きく「Mini Surfboard Collection」と書かれていたからだ。のちに調べると、付近に住む山中初志さんが手掛けたミニチュアサーフボードが店内に飾られていることがわかり、これは会いに行かない手はないと取材を決行。実はミニチュアサーフボードは、海外でアートとして受け入れられているもので、プレミアムなサーフボードの縮小模型を部屋に飾るサーフボーイがいたりする(アメリカのマルコム・ウィルソンが有名で、山中さんも尊敬している)。

 酒店に入ると、その異様な光景に思わず驚きの声を発してしまう。800種類ほどの酒が揃うばかりか、それと同時に大量の酒に引けをとらないミニチュアサーフボードの数々が目に飛び込んでくるからだ。しかもそのミニチュアのラインナップたるや、映画「ビッグウェンズデー」に登場した〈ライトニングボルト〉のものなど、少々サーフィンをかじっている者なら一つや、二つは見覚えがあるだろう歴史的なものばかり!

 チェックシャツをタックインして、1970年式のBMW R75/5に跨って店にやってきた和製クリント・イーストウッドみたいな山中初志さん。今年で67歳になるというのにめちゃくちゃエネルギッシュで、そのいで立ちから一目に相当の趣味人であることを感じさせられる。この酒店を20年以上ギャラリーとして使わせてもらっているらしく、とにかく店も人もどうみても只者ではない。

若い頃からバリバリのサーフボーイだったのかを聞くと、40歳でサーフィンを始めて、特技はパーリング(海面にボードが刺さって撃沈すること)と言うからちょっと親近感。

「ずっとバイクが好きだったからサーフィンはむしろ苦手に思っていたんだよ、でもいざ体験したらやっぱり面白いじゃん。97年頃かな、サーフボードもどんどんコレクションしたくなってきたんだよね(笑)。腕前はからっきしのくせに。バイクも恥ずかしくて言えないほどあるし、ウクレレや石も集めていて、タイプライターもヘミングウェイが使っていたモデルなんかが全部で90台くらいある。コレクター気質なんだよ。家族の目もあるなかサーフボードも何本も置くってわけにはいかないからさ、欲しい気持ちを抑えるためプラモデルのようにミニチュアを作ったのが始まりだった」。

 このミニチュアサーフボード。見る人次第では、一見作るのが難しくなさそうに思うかもしれないけど、想像をはるかに超える大変さ。できるだけ実際のサーフボードと同様の素材を用いるのだが、サーフボードのコアとなるポリウレタン製の発泡フォームひとつとっても、目の粗さが目立たないように本来のサーフボードには使用されない超硬質度のものを選ぶ。つまりはサーフボード専用のフォームではないため、ストリンガーと呼ばれる補強材(ボードの中心にまっすぐ伸びる木材)もわざわざ改めて付けなくてはいけなかったりする。

 他にも実物と同等のバランスでディケール(ボードに付くロゴ)を作ったり、あえてサーフボードに使用感を表現したり、エアブラシを忠実に施したりなど、工程をまとめても早くて8時間ほどかかるというから、サーフボードを一本作るより時間を要してしまうのだ。山中さんは車の専門学校を卒業し、定年を迎えるまで車メーカーに勤め、メカニックにも関わっていただけあってバイクでもなんでも、とにかく自分でいじる性分。これだけ苦労しそうなことなのに、楽しくて熱中してしまうというから凄い。

ミニチュアサーフボードを設置するラックや、額、さらには自分で作ってみたい人のために発売したミニチュアサーフボードの工作キットのパッケージングまで自らの手でこなす。

 中でもディケールの正確さは群を抜いていて、その製作方法を問うと「企業秘密!」と言われてしまった。ミニチュアサーフボードは、日本はおろか世界にもほとんど情報がなく、山中さんはすべて自分なりに試行錯誤してここまでたどり着いているので当然といえば当然……。入手困難なサーフボードにおいてはできるだけ画像や詳細を手に入れ、1/10スケールや、1/8スケールなど、縮尺やバランスを完璧に合わせていくのもおもしろいところなのだそう(長さを図る道具まで自主製作していた!)。

「いつもどうやって作ろうか、なんてことを海の上で波待ちしながら考えている。で、結局波に乗れずこけちゃうんだけどね(笑)プラモデルを作っているあの瞬間ってすごくドキドキするじゃない。ミニチュアサーフボードではあれが味わえるんだよ」と山中さん。なんだか実物ではなくミニチュアに頼ることも、ピュアでロマンがあることに思えて俄然興味が湧いてきた!

 シェイプルームならぬマイルームで粉まみれになりながら製作に励み、お風呂に入りながら水研ぎをしたり、湯に浮かべて水流を確認したりしている“乗れないサーフボード”のシェイパー。日本は無論、世界にも極めて少ないミニチュアサーフボードの草分けのひとり、山中初志の名をぜひともニッポンのサーフボーイにも知っておいてもらいたい。

インフォメーション

川奈酒販

◎静岡県伊東市富戸1091-51 ☎0557-51-5599 9002100 不定休 ✉︎a546051775@icloud.com(山中さんへのアクセスはメールにて。)

SHARE: