カルチャー

アートとスケートボード、ひいては宗教まで同じなのだとトム・サックスは言う。

TOM SACHS & SKATE

2023年8月24日

スケートが教えてくれること。


photo: David Perez Shadi
text: Kunichi Nomura
2023年9月 917号初出

トム・サックス
TOM SACHS
トム・サックス|1966年、ニューヨーク生まれ。建築を学び、フランク・ゲーリーの事務所を経て現代美術家に。撮影は彼のスタジオでデッキを組み立てるところから始まった。

ーー今回はアートではなくてスケートボードについて聞きたいんだけど。

 もちろん、お答えしよう。最初に買ったボードは「スーパーチーフ」という青いプラスチックの板で開放式のベアリングにウレタン製のウィールが付いたものだった。どうやってそれを手に入れたかについてはもう覚えちゃいないけど、それはウレタン革命初期の頃だったはずだ。

ーーというと’70年代の話ですね、スケーターとしてのキャリアは長いと。

 といっても最初の2年間は、俺はそいつをウェストポートにあるコーリータウン小学校の校庭で膝を立てながらプッシュしてた。つまり下手だったんだよ。たしか8歳の頃だ。口だけは達者で、態度もデカいと評判だったが、俺は勉強でもスポーツでも何をやってもまったくもってトロい子供だったんだ!

ーーそれでもスケートはやめなかったと。

 やめなかった。雑誌だって見ていたよ。14、15歳の頃だけどね。ステーシー・ペラルタ(パウエル ペラルタの創業者)やゴンズ(マーク・ゴンザレス)に憧れたりもしたし、その中でもスティーブ・キャバレロが好きだったな。18歳くらいのときに買った4、5代目の俺のボードはキャバレロモデルだったくらいだ。

ーー結構マジにスケーターだったんじゃないですか!

 まあね。高校のときも体育館に行っては何時間も滑ってたよ。ただグルグルと回りながらね。何かトリックができたわけじゃなくて、できるのはグラインドぐらいだったけど。仲間と一緒に競いながら滑るわけじゃなく、1人だったからね。

スケートをするトム・サックス

ーースケートはDIYカルチャーの代表的なものとみなされているけれど、何かアートと共通するものってあると思う?

 1987年かな、ロンドンにいた頃にアートによりハマってボードも飯代のために売り払っちまった。今でも後悔してるよ、あのボードは亡くなってしまった友達から手に入れた特別なボードだったから。俺はたくさんのエネルギーをスケートから受けていたけど、その頃にはアートを創ることからエネルギーをより得るようになっていたんだ。自分のボードを装飾することがアートへと変化したとも言える。なにかスピリチュアルなものを物理的に表現するというのは、宗教でも見られることだけど、スケートにもアートにも当てはまることなんだよ。

ーー宗教とスケートとアート!

 宗教だとカトリックとかは特にそうだね。ということはスケートは大聖堂と一緒なんだよ。900エアは大聖堂が表すものを行動に変換したものなんだ! だからこそみなトニー・ホークのことを神と称えるんだよ。でもね、トニーが神だとするとゴンズは悪魔。そしてどちらが世界を動かしてるかといえばわかるだろ。

ーー悪魔っすね。えっと、ちょっと難しい話になってきましたが。ではスケートから影響を受けたことってある? 特に自分の創作活動とかアートにおいて?

 スケートもアートも同じスタート地点から始まってると思う。とてもパーソナルなところからね。もちろん年を重ねて、他の人と交流するにつれて、つまり外部からの影響とか会話、競争によってどんどんと複雑になっていくんだけど。それは場合によって悪い方向に向かっているように見えるかもしれないけれど、大抵の場合は良い方向に向かっていくものだよ。でね、スケートについてゴンズやコストンと同じ文脈で語れるほど俺はうまくない。けど言えるのは、スケートでもアートでも、自分と神様との間以外に競争なんてものはないということを受け入れればいいんだ。そうすれば自分って史上最高の自分じゃん! ってことがわかるはずなんだよ。

ーーとっても難しいですが、要はアートもスケートも誰よりもうまくとか、俺はあいつよりすごいとか、そういうことじゃなくて自分がしたいように、あるがままを受け入れればいいと、それがスケートの影響?

 そういうこと。

電動式のスケートボードとヘルメット
ソーホーにあるトムのスタジオの玄関には、通常のボードだけでなく、電動式のスケートボードとヘルメットがズラリ。パワーアップされたモーターで街中をかっ飛ばすのもシティボーイのトムらしいスタイル。
トム・サックス
もっぱらスタジオ周りや移動にスケートをするトム、ときにはゴンズと一緒にパークにも。