CULTURE

文房具&スケートボード、奇跡のシェアショップ。

2021.05.13(Thu)

photo :Koh Akazawa
text :Kosuke Ide
2019年5月 865号初出
※文中の年齢や年代は2019年当時のものです

創業昭和2年、都立大学の『たつみや文具店』。半分が文房具屋、もう半分がスケートショップというユニークなスタイルはどのように生まれたのか?

店主・小杉直良さん(左)、昌巳さん(右)。店舗の中央から左側が文房具、右側がスケートボードと綺麗に分かれた店内。「スケートボードを買いに来た初めてのお客さんは、お店に気付かず通り過ぎちゃう人が多い(笑)」

 書店&雑貨屋とか、工房&カフェとか。異業種を組み合わせることで相乗効果を狙ったり差別化を図ったり、あるいは単にスペースをシェアするという店は今やまったく珍しくないわけだが、こんな組み合わせはどこを探してもないんじゃないか? 店舗の半分が文房具屋、そしてもう半分がスケートショップ。もはや“その筋”の人には有名すぎてこのユニークさに気づかなくなっている人も多いくらいの、ちょっとした“老舗”である都立大学の『たつみや文具店』は、もちろん最初からこんな店だったわけじゃない。先にタネを明かしてしまえば簡単な話で、「文房具屋を営む家に生まれた息子がスケーターだった」ということになるのだけど、今年で御年79歳、未だ現役バリバリの店主・小杉直良さんに話を聞いてみたら、「ウチの創業は昭和2年。僕の父と母が結婚して店を持ったんですが、当初は作業着などの洋品と文房具を扱っていたらしいんです。それが、戦後の統制で洋品の仕入れが難しくなったらしくて、文房具だけを扱うようになったみたい」と言うので驚いた。つまり『たつみや』は最初からシェアショップだったってことになる。

 「中学生の頃から店番をして手伝っていた」という直良さん。その後、店を継いだが、ちょうど店の向かいが今年で開校145年(!)という目黒区立八雲小学校という立地もあって、文房具屋の商売は安定していた。もちろん息子の昌巳さんも同校の卒業生。趣味としてスケートを始めたのは10代の終わり頃。
「近くに駒沢公園があるので、毎晩行って滑ってました」(昌巳さん)
 父・直良さんと同じく昌巳さんもまた家業の文房具屋を手伝い始めたが、ちょうどその頃、コンビニが増えて文房具を扱うようになっただけでなく、パソコンの普及で文房具そのものを使う機会が少なくなり、店の売り上げに陰りが見えてきた。今から20年くらい前のことだ。
 「色々と打開策を考えてみたんですけど、難しくて。悩んでいるうちに、文房具屋でスケボーを売っちゃいけないことはないんじゃないかなあと思い始めて。ちょうど業界に入って働き始めた知り合いもいたし、自分や仲間の分も安く仕入れられるかな、というくらいの気持ちでした。最初は20~30枚くらいのデッキをコピー機の脇に少し置かせてもらって。そうしたら、少しずつスケーターが通ってくるようになったんです」(昌巳さん)

 まだ現代ほどスケートショップも多くはない時代だ。貴重なショップは口コミで広がり、スケートの“店内シェア”は年々拡大。デッキ、トラック、ウィールなどハードギアから、ウェア、ビデオなども扱い、果ては修理も行うに至って、徐々にスケートショップに「代替わり」しつつあるようだが、一方で両者が入り交じるこのミックス状態だからこそ、生まれるものもあるという。
「ウチは普通のスケートショップよりも入りやすいかなと思っているんです。文房具を買いに来たお母さんについてきた子が、店で流しているスケートビデオを夢中になって見始めたりすることも多くて。向かいの小学校でも、今、5人くらいスケートやってる子がいますよ。あと『子供の頃、ここで買ってました』っていう子が、大人なってまたお客さんとして来てくれたり。そういうのはありがたいですね」(昌巳さん)

 今年で45歳になる昌巳さんだが、「2、3年前まではしょっちゅう、今も時々は」朝からスケートをしているというから、お父さん譲りの“現役”っぷり。駒沢公園に25年以上も通い続ける大ベテランだ。
「年齢も年齢なんで、お客さんの若い子に『スケートやられるんですか?』なんて聞かれちゃうんですけどね。今は駒沢公園にも、僕も知らない子たちがたくさんいます。僕らやさらに上の世代が、行政や大人と交渉したり、マナーを守ることでやっと手に入れたスケート場だけど、今の若い子たちはそういう経緯を知らないので、ついルール違反をやっちゃう子もいるんです。プッシュしちゃいけない場所でやってしまったり。『気持ちはわかるけど、それはダメなんだ』と彼らに伝えていくことも大事かなと思ってます」(昌巳さん)
 来年、開催される東京オリンピックではスケートボードが初の正式種目になるということが大きな話題になっているけれど、スケボーはもともと、ストリートで生まれた“文化”だ。ここには、それをさらりと教えてくれるセンパイがいる。
 「シューズも〈ETNIES〉などのスケートブランドのものが個人的にも好きで、お薦めしているんです。今は大手の総合スポーツブランドが選手をスポンサードして、お金をかけて開発や宣伝をしている時代ですが、やっぱりスケートのカルチャーとともに生まれてきたブランドを応援していきたいというのもあって。お店に来る若いお客さんにそういうことを説明したら、理解してくれて、ファンになってくれる子もいる。嬉しいですね」(昌巳さん)

 今年で創業92年目(!)になる『たつみや』の店舗がある商店街も「昔に比べ、店が少なくなった」というが、「少しずつ新しい店もできてきてますよ。近くのパン屋『TAKUPAN』のご主人もスケーターらしいね」と直良さん。失礼ながら、79歳の方の口から“スケーター”という言葉を聞いたのは初めてかもしれない。馴染みすぎてもう気がつかないくらい、この店には確実に“ミラクル”が存在しているのだ。
 

『たつみや』では鉛筆をダース買いしたお客さんに、無料で「名入れ」のサービスを行っている。しかも現在、主流のレーザー加工ではなく、今では珍しい和文タイプの活字を使って箔押しするオールドスクール・スタイル! さっそく、入れてもらいました。

インフォメーション

たつみや文具店

東京都目黒区八雲1-11-18 0 3・3723・4288  14:00~21:00 日・祝休 スケートギアはオンラインショッピングサイト「R-F SKATE」としても販売中。https://r-fskate.com/
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