カルチャー

デパルマ南部はやとは『トキワ荘の青春』に芸人として共感しすぎた。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.36

2026年11月7日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回はデパルマの南部はやとさんが、実話に基づく漫画家たちの青春譚『トキワ荘の青春』を紹介してくれた。


今日の映画
『トキワ荘の青春』
(市川準監督、1996年)

『トキワ荘の青春 デジタルリマスター版』
Blu-ray:¥6,380(税込)
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元:ポニーキャニオン
©1995/2020 Culture Entertainment Co., Ltd

昭和30年代、東京の片隅のアパートに手塚治虫に憧れる漫画家志望の若者達が一緒に暮らしていた。藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫……。彼らが切磋琢磨しながら漫画という夢を追いかける青春群像劇。主役の寺田ヒロオは本木雅弘が演じている。


『トキワ荘の青春』の舞台は、手塚治虫先生、石ノ森章太郎先生、藤子不二雄先生たちをはじめ、昭和を代表する数々の漫画家たちが暮らした南長崎のトキワ荘。ただし、早くから売れっ子になる人がいる一方、なかなか目が出ない人たちもトキワ荘には住んでいます。中でも寺田ヒロオ先生、赤塚不二夫先生、森安直哉先生の3人の動きは、売れない芸人である自分とほぼ一緒で、そこに共感できすぎてしまいました。

 特に印象に残っているのは、持ち込みに行った編集者から「漫画家向いてないよ。田舎に帰りなよ」みたいなことを言われた赤塚先生が、しょんぼりしながらトキワ荘に帰るシーン。そのことを寺田先生に話すと、「才能がないわけじゃない」「自分のやりたいことを整理して、もう一度描いてみたらいい」と励まされて、さらにはお金の入った封筒までくれるんですよ。それに対して赤塚先生は、「ありがとうございます」とも言わず、封筒を手にしたまま、しばらく廊下に座ってただ眺めている。喜んで素直に受け取るのはプライドが許さないけど、かといって断る余裕もない。どうしたらいいのかわからなくて黙るしかないその5秒の沈黙が、僕にはよくわかるんですよ。僕自身、めちゃくちゃ滑ったとき、先輩にイジられるより、「お前は面白いから、大丈夫だよ」とかって優しい言葉をかけられる方が、よっぽどしんどいので。

 ただ、赤塚先生を励ます寺田先生にしても、明らかに自分のやり方に迷っているんですよ。トキワ荘の中で最年長の彼は、みんなから慕われてはいるんですが、世間の流行からすると絵が古くなっている。だから、先輩として「才能がないわけじゃない」「自分のやりたいことを整理して、もう一度描いてみたらいい」と語るわけですが、実際は寺田先生自身がその言葉を誰より言われたいんですよ。だけど、リーダー格の彼にそれを言ってくれる人はいない。そういうところもめちゃくちゃキましたね。僕も後輩が増えてきて「面白いねんから、大丈夫」とか励ますことがありますが、実は僕こそが言われたいと心では思っていますから。

 そんな感じで、この映画は全体的にトーンが暗いんです。タイトルにある「青春」と聞いて想像するような明るさばかりではありません。実際、親に反対され、苦しい生活のなかで夢を追い続けた当時の漫画家たちにとって、毎日が楽しかったわけではないと思うんですよ。冒頭、暖房もない部屋で服を何枚も着込み、不安そうな表情を見せる寺田先生の横顔から、映画の空気が伝わってきます。その暗さも含めて、この作品の魅力かなと。青春って明るいことだけじゃないですからね。

語ってくれた人

デパルマ南部はやとは『トキワ荘の青春』に芸人として共感しすぎた。

南部はやと

なんぶ・はやと|1998年、京都府生まれ。グレープカンパニー所属のお笑い芸人。2019年、西川よしやとデパルマを結成。事務所ライブなどを中心に活動中。コンビ名の由来は『スカーフェイス』で知られる映画監督のブライアン・デ・パルマ。