TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】今すでに戦火の中

執筆:小宮雄貴

2026年7月25日

舞台挨拶後には僭越ながらパンフレットへのサインをさせてもらっている。こんな小学生が自分の持ち物にネームペンで書くようなサインでいいのかと毎回申し訳なくなるが、一人一人と話す時間が密かな楽しみにもなっている。

どうして観に来てくださったのか毎回聞くのだが、やはりというか当たり前だけど坂口恭平さんに何らかの形で惹かれた人が多い。ファンの方々はもちろん、双極症の当事者の方や「いのっちの電話」に相談したことのあるという方も見にきてくれた。本人のことを全く知らなかったにも関わらず、口コミを頼りに来て3回もリピートしてくれた人がいたのは流石に嬉しかった。もちろんSNSなどで寄せられるのは好意的な意見ばかりではないし、動員数の厳しさという現実と向き合うことも避けられない。それでも映画という形で今公開できて心から良かったと思う。

ポレポレ東中野での公開2日目のこと。一人の男性が涙を浮かべながらサインを求めにきてくださった。その方は救急隊員をされているそうで、この映画で自死の現場のリアルを隠さなかったことに「ありがとう」と震える声で伝えてくれた。

正直その部分を撮ってしまったときは公開すべきではないと思ってしまっていたのが、「死を隠蔽するのか」と恭平さんに問われたことが今でも忘れられず、映画の中には自分の迷いも含めて残すことにした。普段、自分が目を瞑っているもの。そこから目を逸らさずに向き合っている方と映画館で対面できた時、この映画を作って良かったのだと改めて思わせてもらった。

7月上旬は長野県上田市のミニシアター上田映劇でも上映していただいた。

上田のことは、2025年8月に縁あって撮影させていただいた寺尾紗穂さんのライブのMCで「やどかりハウス」のことを聞いてからずっと気になっていた。「やどかりハウス」はコロナ禍をきっかけに始まった取り組みで、家庭内の問題、生活困窮など、さまざまな困難を抱えた人たちが、「駆け込み宿」としてゲストハウス「犀の角」を安価で泊まることができる。寺尾さんは、DVやネグレクトなどの社会問題の発端を辿ると戦争トラウマに行き着くという話を「やどかりハウス」のスタッフから聞いたそうなのだが、自分も恭平さんから何世代にも渡るトラウマ連鎖の話を度々聞いてきた。日々、命と向き合っている人たちは、その向き合い方は違うとはいえ、どこかで通じ合っている。

「やどかりハウス」で相談員をする秋山紅葉さんとは以前お話しさせてもらったことがあったので、映画に誘ったところ、わざわざ時間を作って観に来てくださった。

「坂口さんとなら今すでに戦火の中だという話ができると思った」

恭平さんや秋山さん、そして映画を見に来てくれた救急隊員が向き合っているものを知った以上、またそれを隠蔽したくはない。でもドキュメンタリーに何ができるかとも思う。安易にはカメラを向けられない。それでも覚悟を決めて、カメラを向けている人たちがいることも知っている。最近、カメラを向けるべきタイミングとは何なのかとずっと考えてしまう。

プロフィール

【#3】今すでに戦火の中

小宮雄貴

こみや・ゆうき|1997年、神奈川県生まれ。映像制作会社に所属し、ディレクターとして『情熱大陸』などテレビドキュメンタリーを制作する傍ら、自主制作も行う。2026年3月より初監督作品『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』が全国順次公開している。

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映画『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』公式サイト
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