TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】〈STICK〉というDCブランド
執筆:市村修蔵
2026年8月30日
第4回も、DCを追っていくわけですが、まずぼくが掘っている「DCとはなんぞや?」という方は、ぜひ第1回をご参照ください。デザイナーズブランドでありながら、市場ではほとんど評価されず、ネットにも情報が残っていない、埋もれた80年代ブランドたちを今回も紹介していきます。
80年代といったら外せないのはJUNグループ。70年代のセンセーショナルなCMが特徴的ですが、80年代ももちろん大暴れ。EX、JUN、DOMONなどなど。DOMONに至っては、日本が誇る世界的デザイナー、熊谷登喜夫氏が在籍した時期があります。僕の地元でもある神戸には、安藤忠雄が手掛けた店舗、北野町TOを作りました。さらには、長渕剛主演映画『とんぼ』の衣装、吉川晃司の舞台衣装として有名なLUNA MATINOもJUNグループ。そんな僕が愛してやまない80年代日本服飾史を彩ってくれたJUNグループですが、まだまだDCブランドと呼べる端っこのブランドが存在します。
名前の弱さとは裏腹な〈スティック〉
営業時間中に雑誌をペラペラとめくるのが僕の日課なわけです。何回も繰り返し読むことで気づくことが多いのなんの。STICKもそのときに出会いました。『MRハイファッション』を読んでいると、「なんだこの軽いブランド名は!」と目がとまるわけです。STICK。何度聞いても最弱です。ほかにもいろいろなブランド名がありますが、ここまでのは……。そんな名前とは裏腹に、洒落ている服を作るわけです。
まず、僕がようやく手に入れた貴重な1着から。素材はレーヨン70%にナイロンの光沢糸が30%の2者混。緯糸に光沢のある糸を使用することで、視覚的にも表情のある生地に。80年代の定番素材、レーヨンが土台を形成することでドレープ感を担保。動きが加わることで雰囲気のある1着となっています。また、美容師さんが使用していたんでしょうか? ブリーチ痕が残っています。DCブランドで古着ライクな使用感を感じる。洋服としても古着としても面白いですね。僕は、モッズ・ヘア(80年代雑誌にたびたび掲載される、ヘアスタイリングを担当する美容室)の人が使っていたらうれしいな、とか感じるわけです。
そんなSTICKは、1986年SSにデビューコレクションを迎えたブランド。JUNグループの中では高い年齢層を狙い、ノスタルジックと現代性のクロスオーバーを主としています。『BRUTUS』のSTYLEBOOKには、86SSの初期のSTICKの広告が見られます。流石の『MRハイファッション』、86AWのフォーストコレクションまで見ることができます。今回は、1987年1月号に掲載された、デザイナーである鈴木よしひろさんのインタビュー記事から紹介。この号では、ラフォーレ赤坂で行われた1987SSについて言及されています。
本シーズンでは、以前の記事でも紹介した、80年代中頃からブームになる東南アジアや中東的なエスニックとは反し、20年代の植民地政策時代の大英帝国のコロニアルをイメージした感覚を反映しています。要するに、プリントや織柄で表現するエスニックではなく、STICKのターゲット層である中高年男性が着用できるクラシックを押し出しているわけです。
実際にコレクションを見てみると、麻素材と思われる幅広のストライプジャケットにミリタリーライクな装身具、果ては化繊のレインコート、50sライクなスペクテイターシューズ、ベロア素材(?)のネクタイにフェドラハットまで。コロニアルとは対極に存在するようなアイテムまでもが合わせてコーディネートされています。DCらしい解釈、いや、鈴木さんらしさというべきでしょうか。
僕の保有しているシャツもそうですが、ベースはシンプルに、少量のアバンギャルドを振りかけるように味付けするのが得意なブランドということが分かります。ベーシックが基軸にあるところはARBATAXもそうですね。僕が好きなコンセプトは、これなのかもしれません。
愛でる目線で見えてくるもの
現代でも高く評価されるブランドには、普遍性と時代に即した革新性が必要ではないかと思うわけです。STICKはこの感覚が少し不器用といいますか、時代を超えて愛されにくい要素が見られ、アバンギャルドな感覚も、人々が求めている感覚とは若干ずれを感じるわけです。ですが、見方を変えると面白い要素が無数にあるわけです。最後に僕たちが少しだけ「愛でる目線」を持って見てあげると、このブランドは急に面白く見えてきます。
ARBATAXより少し大人びたエスプリを感じさせるデザイン。ルックもらしさがあり、生地も仕様も申し分ありません。盛り上がりそうな気持ち半分、一癖のあるところが万人受けしなそうな思いは半分、といったところでしょうか。
ここまで4回にわたり、お付き合いいただきありがとうございました。
この連載を通して紹介してきたブランドたちは、今後も大きく評価されることはないかもしれません。けれど、雑誌をめくり、資料を追い、実際に服へ触れていくと、それぞれのブランドが当時本気で時代と向き合っていたことが伝わってきます。流行や相場だけでは測れない面白さが、80年代のDCブランドにはまだまだ眠っています。この連載が、皆さまにとってそんな世界への入口になっていれば幸いです。またどこかで、新たなDesigners & Cult Brandsを一緒に探検いただけますと幸いです。
プロフィール
市村修蔵
いちむら・しゅうぞう|2002年、兵庫県生まれ。2025年7月発売の本誌古着特集にも登場した、DCブランドを研究する長野県上田市の古着屋『SNOB』店主(当時は信州大学の現役大学生だった)。スタイリスト・小沢宏さんや、編集者・山下英介さんといった業界の大先輩らも熱視線の若きホープ。
Instagram
https://www.instagram.com/snob_old_clothing_store/
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