TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】〈アルバタックス〉というDCブランド

執筆:市村修蔵

2026年8月23日

第3回も、DCを追っていくわけですが、まずぼくが掘っている「DCとはなんぞや?」という方は、ぜひ第1回をご参照ください。デザイナーズブランドでありながら、市場ではほとんど評価されず、ネットにも情報が残っていない、埋もれた80年代ブランドたちを今回も紹介していきます。

初めにもう挙げておくと、今回ご紹介するブランド、少し有名かもしれません。ぼくはマイナーなブランドを見つけるたびに「こんなのあったのか」と興奮するタイプです。でもそのそのARBATAXだけは違いました。ずっと昔から知っている、そんな当たり前の存在だったんです。ぼくが運営する『SNOB』でも幾度となく入荷してきました。大のお気に入り。知ってほしいという気持ちの反面、紹介してしまったら本当に盛り上がってしまうかもという、若干離れてほしくない気持ちさえ抱きます。

ずっと昔から知っていた〈アルバタックス〉

魅力は、カジュアルで中性的なデザインが特徴的です。カラーパレットもニュアンスカラーから鮮やかなお色味まであり、シルエットもゆったりとしています。今の洗練されたお洋服にアクセントとして着用するのにもってこいなアイテムが多い。ぼくが辞書代わりにしている『Checkmate』86年4月号にも「誰にでも着られる服でありながら、流行性も刺激されている」と書かれています。つまり、いい洋服ってやつです。

そんなARBATAXとは、どんなブランドだったのでしょうか。

90年代に丸井系列でお買い物をされていた方は、ABXという名前のほうが聞きなじみがあるかもしれません。1983年9月1日にサンエー・インターナショナルからスタートしたブランドです。全国に展開するのですが、今では撤退し、もう拝めないブランドです。

90年代以降は細身なカジュアル服に転身し、面影はなくなっていきます。80年代とそれ以降が違うブランド? となるのでおなじみです。90年代以降は管轄外なので、こと80年代に関しては歴史を追っていくと、より面白さが見えてきます。当時もデザイナーの名前よりブランド名だけが一人歩きしている印象がありますが、センスのあるデザイナーさんが存在します。さらに初代と2代目がいるという2段構え。掘ってみたくなりましたね。では、早速。

初代デザイナー、鈴木良彦

鈴木良彦。この方が設立当初からのデザインを引っ張ってきました。13年前のBIGIがDCの覇者として名乗り上げる前のD・GRACE、Clove de Clovesというレディースブランドを経て、メンズデザイナーとして入社します。流石のBIGIです。この時代のデザイナーでBIGIを通っていない方はいないのではないかというほどの影響力。コンセプトは「フレンチトラッドでハイブローな男」。レディースの企画に携わっていた方がメンズ服を担当。この時代に国産既製服でフレンチトラッドを目指すと……そう言われると納得のデザインです。

ブランド名の由来まで言及されており、鈴木さんが旅行中に見つけた島の名前からとっているとのこと。デザイナー就任時点で30歳ほどとお若い上に、センスまでいいときました。やはりARBATAX、侮れません。

鈴木さんは86AWシーズンにはARBATAXを去り、Spaggiari(スパッジアリ)を設立。ベーシックながらも中年不良を演出した服だとかなんとか。88年ごろの雑誌には散見され、19、20の時に憧れた男性像が飛び出してきたようなルック。真偽は定かではありませんが、松田優作さんが愛用していたとかなんとか……。ぼくもいつかは着てみたいブランドです。

2代目デザイナー、竹本修

話が逸れましたが、86AWシーズンには初代デザイナーから2代目デザイナー、竹本修さんへと交代するわけです。竹本さんはベイシックという会社で販売、企画、生産、最後にはチーフデザイナーとして活躍し、後にプレイロードにてヴァレンティノの企画を行いました。Mr.たたき上げと呼べる存在です。本人もインタビューで、専門学校に行かずにデザイナーまで上り詰めた経験から、実践で経験を積むことが最も重要だと発言しています。

そんな竹本さんがディレクションを行うARBATAX 86-87AWシーズンは、40年代の「アンダム」という書籍から、雨で煙ったテニスコートで試合が終わった後に羽織る変形トレンチからインスピレーションを得た洋服が紹介されています。表は白、裏にはドット柄をあしらい、バックには“PAINT THE TOWN BLEU”という文字がプリント。また、当店でも入荷したことのあるインディゴ染めのレーヨンシャツや、60年代を彷彿とさせる細いタイ。受注生産ではありますが、リザードの革靴、アンティークのBULOVAやROLEXなんかも販売したりと、やりたい放題。極めつけは、ベルトと共布のシルクジャカードで織られた生地のアームバンド。コーデのお供にはタブカラークレリックやラムウールのニットポロと、欧州への意識が見えます。

これで全容が見えてきましたね。ARBATAXとは、ヨーロッパに対しての憧れをDCとしての形に落とし込み、良きものを嗜みたい若者のスノビズムに深く突き刺さったブランドだったといえます。

シャツやアウター類のサイズ感はゆったりと、着心地もよく、洋服としてのクオリティも高い。さらに、遊び心という名のエスプリまで効いています。デザイナーさんの交代はあるものの、一貫してARBATAXイズムを感じさせます。(言及しているのはもちろん80年代の時だけですよ)

すぐそこまで「高騰」という2文字が迫っているかもしれません。もしかしたら、あなたの街の古着屋さんでも見られる日が来るかもしれない。そうなる前に急いでフリマアプリをチェックだ!

プロフィール

市村修蔵

いちむら・しゅうぞう|2002年、兵庫県生まれ。2025年7月発売の本誌古着特集にも登場した、DCブランドを研究する長野県上田市の古着屋『SNOB』店主(当時は信州大学の現役大学生だった)。スタイリスト・小沢宏さんや、編集者・山下英介さんといった業界の大先輩らも熱視線の若きホープ。

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