TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】負けることに憧れて野球を始めた

執筆:松本アタル(ハシリコミーズ)

2026年8月25日

松本アタル


text & illustration: Ataru Matsumoto
edit: Nozomi Hasegawa

小学校低学年の頃、メジャーリーグという映画に衝撃を受けて、野球をやりたいと親に相談した。この映画は、年々弱くなるダメなチームが、優勝に向けて快進撃を繰り広げるというわかりやすいアメリカの映画だ。冒頭でランディー・ニューマンの情けない歌と情けないプレイをする選手たちが重なるシーンがあり、小学生の僕はなぜかこのシーンに強烈に心を奪われた。親はなぜ僕が急に野球をしたくなったのか不思議そうにしたものの、なんとか了承してくれてそのままリトルリーグに入部した。

周りのみんながプロ野球の話をしていても、無論僕は全くついていくことができなかった。みんなが優勝を目指して日々練習に励んでいるときも、僕の頭にはずっとランディー・ニューマンの歌声が流れていて、どうやって映画のように滑りこけながら球を取ろうか、どうやったらベースにギリギリ届かないヘッドスライディングができるかなどばかり考えていた。周りのみんなには僕の頭に流れるランディー・ニューマンが聴こえていないので、単純に”すごく下手な奴”として写っていたのだと思う。事態はそんなにストレートではない。

結局僕が入部してから辞めるまでの間、そのチームは一勝もしなかった。かなりの試合を経験したけれど一勝もしなかった。これが僕のせいであるかどうかはGod Only Knowsにしておこう。

そんな僕も大人になり、お金や礼儀、パルプフィクションを習った今、目に見えて減っていくガソリンを見るだけで不安になったりする。ただ日々はそんなにストレートではない。日産バネットは、すごいスピードで減っていくガソリンメーターを通して僕に提示してくれる。嫌なことを、嫌なこととして処理する勿体なさを。都度巻き起こるトラブルと、吸い込まれていく一万円札をいかにオシャレに捉えられるかが、生態系トップに佇む僕らの仕事である。バネットがいてくれたら、負けることに憧れながらピッチャーをしていたあのときのように美しく輝ける気がする。最近の僕へ、バネットの轟音の裏で情けなくそしてひっそりとランディー・ニューマンが歌いだす。

プロフィール

松本アタル

まつもと・あたる|2001年、東京都生まれ。’19年よりバンド「ハシリコミーズ」として活動。楽曲制作からアートワークのディレクションまで、セルフプロデュースで行なっている。8月9日より全国5か所を巡るツアー「Is it Music? Tour」を開催。

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