カルチャー

思考をフル回転させて立ち向かいたい読みたい3冊。

10月はこんな本を読もうかな。

2025年10月1日

text: Keisuke Kagiwada

『〈私たち〉とは何か 一人称複数の哲学』
蓮󠄀實重彥(著)

 日本を代表する映画批評家による、日本映画にまつわる論考集だ。中でも白眉は、書き下ろしの「内田吐夢論――またはその画面を彩る慎ましい顕在性をめぐって」。この昭和の巨匠の作家性に肉薄せんとする眼差しの鋭さもさることながら、「説話論的」「主題論的」といったお馴染みの概念を初読者に向けて改めて実践的に解説するような開放感が漲っているのだから。著者にとって、「運動を表象するにとどまらず、運動そのものへとみずからを昇華させるもろもろの細部の交錯とその推移こそが、映画と呼ばれる表象形式の実態」なのだ。¥4,070/岩波書店

『どこかで叫びが ニュー・ブラック・ホラー作品集 』
ジョーダン・ピール(編)  ハーン小路恭子(監訳)  今井亮一、押野素子他(訳)

 おバカなコメディアンとして頭角を現しながら、今では映画『ゲット・アウト』をはじめとする”エレベーテッド・ホラー”の急先鋒となったジョーダン・ピール。そんな彼が編者を務めたアンソロジーには、自身のクリエイティブとも響き合う、黒人差別を筆頭にアメリカに巣食う闇を炙り出す19の短編ホラー小説が収録されている。ピールは序文にこう綴る。「私はホラーを、エンターテイメントを通じた浄化(カタルシス)だと考えている」。その真意は、各自本書を読んで熟味されたし。¥5,280/フィルムアート社

『〈私たち〉とは何か 一人称複数の哲学』
トリスタン・ガルシア(著) 関大聡、伊藤琢麻、福島亮 (翻訳)

「私とは何か?」と問う哲学書は数多いが、本書が問題にするのはタイトルの通り「私たちとは何か?」。著者は冒頭にこう綴る。「最初にこう考えてみよう。政治の主体とは〈私たち〉である、と」。実際、”左派と右派”や”マジョリティとマイノリティ”などをはじめ、政治とはあらゆる〈私たち〉の対立の上に成り立っているのは、実感としてよくわかる。その上でこの〈私たち〉の可能性はどこにあるのかを、著者は思考し抜く。多様性と分断の時代にこそ読むべき一冊だ。¥3,960/法政大学出版局