カルチャー

追うべき背中は本の中にある。Vol.1

2023年4月18日

photo: Yutaro Tagawa
text: Keisuke Kagiwada
2023年5月 913号初出

仕事に悩んだら尊敬する偉人の人生が書かれた本を。
自己啓発本もいいけど、本棚にあるとかっこいいしね。

1. 松下幸之助 『道をひらく』

一生懸命さより工夫する尊さ

“汗水流して働く”ことをよしとする風潮はいまだに根強い。一面ではそれをよしとしながら、「だが」と言葉を継ぐのは、「松下電器産業」(のちの「パナソニック」)を創業した松下幸之助だ。「今までより一時間少なく働いて、今まで以上の成果を上げることも、また尊い」。そのための“くふう”を考えることが大事なのだ、と。松下がこれを語ったのは半世紀前だが、働き方改革が叫ばれる今こそ、すべての人がベースにすべき哲学ではないか。松下幸之助著(PHP研究所)

2. シャルロット・ペリアン 『シャルロット・ペリアン自伝』

選択することの重要性を考える。

建築家のシャルロット・ペリアンは、「クリエイターは選択をおこなう。選択とは、放棄すること、疑うこと、苦しむことだ」と語る。確かに、複数のめぼしいアイデアがあったとしても、1つのプロジェクトにすべてを投入すればまとまりがなくなるっていうのは、あらゆる仕事に通じる話だろう。だから苦渋の選択が重要なのだが、その末に「全体の部分がそれぞれあるべき正確な場所を見つけたときには、大きな歓び――思わず歌が出る!」と彼女は付け加える。自身の仕事において、調和を重んじたペリアンらしい金言だ。シャルロット・ペリアン著、北代美和子訳(みすず書房)

3. ヴァージル・アブロー 『“複雑なタイトルをここに”』

既存のものを3%だけ変えてみる。

すべてのことがやり尽くされたかに見える現在、新しい何かを生み出すことなんて不可能だと悩むこともあるだろう。デザイナーの故ヴァージル・アブローも同じ意見らしい。そんなとき、彼が推奨するのは、既存のものを3%だけイジる“3%アプローチ”だ。彼の得意技である、文字をクオーテーションマークで括るってのもその一つ。デザインソフトを使わなくてもできるこの簡単なアプローチで、彼は言葉の意味や見え方を一変させた。仕事は手をかければいいってもんでもないのだ。ヴァージル・アブロー著、倉田佳子、ダニエル・ゴンザレス訳(アダチプレス)

4. 落合博満 『嫌われた監督』

嫌われるとしても自分らしい判断をする。

2007年、落合博満監督(当時)は、日本シリーズ第5戦の最終マウンドでピッチャーを山井から岩瀬に交代する。快投を振るっていた山井の降板に、観客はブーイングの嵐だったが、結果的に中日は53年ぶりの日本一に輝く。なぜあそこで? 番記者の疑問に落合は答える。「どれだけ尽くしてきた選手でも、ある意味で切り捨てる非情さが必要だったんだ」。決断を下したときの落合の心中は計り知れないが、チーム全体を成功に導かなきゃいけない立場にとって、嫌われることもまた仕事なのかも。鈴木忠平著(文藝春秋)

5. 佐久間宣行 『佐久間宣行のずるい仕事術』

誰にでもできる仕事にチャンスがある。

TVプロデューサーの佐久間宣行は、ドラマのAD業務が大嫌いだった。「だれにでもできる仕事」だと思っていたから。だから、ドラマADとして、画面に見切れる程度の「サッカー部女子マネージャーの手作り弁当」制作を任されたときも、嫌々ながら始めた……のだが、試行錯誤するうちにこだわりが出て、やたらクオリティの高いものが完成し、ドラマの物語もこの弁当をメインに据えることに。「だれにでもできる仕事」こそ丁寧にこなせば、チャンスに繋がることもあるのだ。佐久間宣行著(ダイヤモンド社)