カルチャー

世界で一番雑誌が集まるロンドンの「HY MAG」へ潜入。

2023年11月5日

本をめぐる冒険。


photo: Mikito Iizuka
coordination: Keita Hiraoka
text: Keisuke Kagiwada
2023年11月 919号初出

雑誌アーカイブルーム
アーカイブルームは、アート、音楽、ファッション、デザイン、セレブリティ、トラベル、スポーツ、ライフスタイルというカテゴリーで基本的には分類。今はデジタルスキャンを進めている。

個人で集めてきた膨大なコレクションをみんなにシェアするワケ。

「雑誌はその時代を生きた人の知識の宝庫なんだ」。情熱的にそう語るのは、ギネスブックが「世界で最も雑誌を所蔵する場所」に認定したロンドンの“カルチュラルラーニングセンター”、「HY MAG」を運営するジェームス・ハイマンだ。

ジェームス・ハイマン
音楽を愛するジェームスは、幼い頃から『NME』や『Smash Hits』などを読み漁ってきたという。「HY MAG」には『ポパイ』もある。「何が書いてあるのかはさっぱりだけどレイアウトやデザインが面白い」とのこと。

『MTV UK』でスクリプトライターとして働いていたジェームスは、面白いナレーションを執筆するための参考資料として雑誌収集を開始したという。かくして集まったのは1万冊超。「世界にはさまざまな素晴らしいモノやコトがあり、雑誌はそれらのことを網羅している。雑誌をキープすることによって誰かにそれらの情報を共有できる」と考えた彼は、2017年に「雑誌を通じて色々な歴史、文脈、ムーブメント、人物を学べ、それがさらに広がっていくような場所」として「HY MAG」を立ち上げた。今では寄付も含めて実に5万冊以上を所蔵し、クリエイターやアカデミシャンが、インスピレーションやネット上では拾えない情報を求めて訪れる場所に。

 最近、世界的に雑誌の休刊が相次いでいるけど、これからの雑誌に必要なものってなんだろう。最後にそう問うと、「フィジカル、デジタル、スピリチュアルの融合が大切になってくると思う」とジェームス。「紙のページをめくる楽しみ(フィジカル)があると同時に、オンライン上で誰でもどこでもアクセスできる利便性(デジタル)もあって、『ワオ!』と唸れる多様な文脈や想像を超える記事と写真とデザインの融合があること(スピリチュアル)。その条件を兼ね備えた雑誌は、今後も残っていくんじゃないかな」

雑誌
COLORS
〈ベネトン〉が1991年から発行している『COLORS』は、ジェームスのお気に入り。「時代ごとの社会問題に肉薄した特集、そしてファッションとしても素晴らしい写真と、グラフィックやタイポのバランスもセンス抜群」とのこと。
雑誌
BLUES & SOUL
1967年創刊の『Blues & Soul』は音楽の雑誌。取り上げる音楽の情報量は多く、質も高い上、写真はファッション誌に引けをとらないくらい強い。昔のミュージシャンの服装がいかに時代に影響を与えたのかも感じることができる。
雑誌
The New Yorker
『The New Yorker』は、ジェームスが世界で一番好きな雑誌で、今でも毎週欠かさず購入しているそう。いわく、「色々な角度でモノを見て、考える土台にもなった大切な雑誌。毎号のカバーも時代を象徴しているよね」。
雑誌
loaded
「UK雑誌史上屈指の発想がクレイジーな一冊」と豪語する、2000年1月発売の『loaded』ミレニアム号。モハメド・アリをはじめ、なんと表紙が100種類もある。「どうやって印刷や流通をしたのか当時の担当者に聞いてみたいよ」
雑誌
FORTEAN TIMES
世界中で起こった奇妙な現象や出来事、研究、面白いニュースを掲載する月刊誌。UFOやモンスターなど非日常的なことを本気で取り上げたりある人に起こった奇妙な出来事を報告したり、ぶっ飛んだ内容で毎回楽しめる。
雑誌
The TATLER
1850年に刊行されたイギリスのファッション雑誌『The TATLER』は、所蔵している中で最古のもの。セレブリティの装いからゴシップネタまで網羅されている。当時の上流階級はこうしたものから、トレンドなどを把握していた。

インフォメーション

HY MAG

事前に目的を連絡し、予約日までに関連する雑誌を用意しておいてもらうというシステム。アーカイブルームに入るにも事前予約が必要。料金が発生するが、依頼内容によって金額は異なる。

Instagram
https://www.instagram.com/hymag_/