カルチャー

[#3] シャーロック・ホームズ・ラブストーリー

2021年7月29日

父と母、四人姉妹、みんな揃っていつかはベイカー街221Bへ。
というのが、我が家の夢でありました。

シャーロック・ホームズ博物館のペルシャスリッパとストラディバリウスが立てかけられたマントルピースの前で、あるいは、壁にピストルで撃ち抜かれたVRの文字の前で、みんなで記念写真を撮るのが夢でした。

夕食はシンプソンズで、あるいはランガムホテルで食べるのが夢でした。

けれど、ある時は金がなく、ある時は時間がなく、そうするうちに、父が死んでしまって、その夢は実現しませんでした。

私はそれが残念でなりません。

父が死んでしまってから、はじめて私は母と一緒にベイカー街を訪れました。母は無論ディアストーカー必携です。

プロフィール

小林エリカ

こばやし・えりか|1978年、東京都生まれ。作家・マンガ家。練馬区ヴィクトリア町育ち。主な著書に『マダム・キュリーと朝食を』、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(ともに集英社)、『光の子ども1、2、3』(リトルモア)等がある。2021年7月にはシャーロキアンの父を書いた『最後の挨拶His Last Bow』(講談社)を発売。