カルチャー

チバユウスケさんにインタビュー。

著書『EVE OF DESTRUCTION』刊行記念!

2022年10月14日

photo: Yutaro Tagawa
text: Keisuke Kagiwada

チバユウスケさん

 遡ること20年以上前。中学生の頃に今はなきシネマライズで観た『青い春』の衝撃が今も忘れられない。内容もさることながら、開始早々爆音で流れるTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「ドロップ」が、もうとにかく最高なのだ。以来、今に至るまでそのボーカルであるチバユウスケさんの歌は、僕の心の支えであり続けている。いつか会いたい。だけど、音楽に詳しいわけでもないし、難しいよなぁ……なんて思っていたら、なんとチバさんが『EVE OF DESTRUCTION』という本を出したという! チバさんが若い頃に聴いて影響を受けた音楽について、私物レコードを通して語ったヴィジュアルブックだ。この本を通してだったら何か聞けるかもしれない。そんな思いを胸に秘め、取材させていただいた。

というわけなので、憧れのチバさんを前にして、何を質問したらいいのかわからない状態で僕は今ここにいるんですよ。チバさんはこの本の中で、「ドクター・フィールグッドに出会ってなかったら、俺はきっと“ロックンロールの成り立ち”がわかっていなかったかもしれない」と語っていますよね。その後、バンド活動を始めてからは、ドクター・フィールグッドのウィルコ・ジョンソンと何度も会ったとも語られていますが、そういう憧れの人を目の前にしたとき、チバさんはどんなことを聞くんですか?

チバさん

チバさん

別に何も聞かない。嬉しいけど、何も聞いた覚えがない。大概、俺より先にベロンベロンになってたから(笑)。いつも山崎のウイスキーを飲んでいたな。

日本のウイスキーは海外の人に人気ですもんね。この本によると、チバさんは他にもいろいろな憧れのミュージシャンたちと会っていますよね。一番嬉しかったのは誰なんですか?

チバさん

チバさん

うーん、ウィルコ・ジョンソンもそうだし、ジョー・ストラマーもそうだし……あと、ラット・スキャビーズは、ミッシェル(ガン・エレファント)のライブを見に来てくれた。ビリー・チャイルディッシュは、ロンドンで一緒にライブをやったのかな?

本では、自分の好きなミュージシャンと共演しても、「昔は「全員ぶっ殺してやる」って感じでライブをやっていた」と語っています。だからこそ、憧れの人と会っても、動じなかったんですかね。

チバさん

チバさん

まぁ、本当はそこまでね、思ってないんだけど。会った瞬間、もういるんだわ。それで憧れじゃなくなるというか。もちろん、大好きだけど。それを言ったらルースターズだってモッズだって憧れていたけど、今じゃもうしょっちゅう会っているから(笑)

対面してその人が存在するとわかったら、もう憧れとは別の感情が生まれると。

チバさん

チバさん

うん、結構そうかもね。ちょっと失礼なのかもしれないけど。よくないなぁ(笑)

僕は今日、その状態まで持っていける気がしないですけど……。そもそもこの本はどういうきっかけで作ることになったんですか?

チバさん

チバさん

これは尾藤くん(担当編集者の尾藤雅哉さん)が、話を持ってきたんだよ。

お話が来て、すんなり「よし、やってやろうじゃないか」という思いになったんですか?

チバさん

チバさん

いや、最初はめんどくさいなぁと思った。でも、ソロ(YUSUKE CHIBA – SNAKE ON THE BEACH名義で8月10日にリリースされた「SINGS」のこと)も出るから、それと合わせてやれるといいかなって。

本の制作を開始して、楽しくなった瞬間はあったんですか?

チバさん

チバさん

まぁ、レコードのジャケがこう、ざーって並ぶと壮観だったので。それでやっぱり「ああ、これはいいかもね」って思った。自分の好きなレコードのジャケが並んでいくのは、俺は嬉しいなと思ったね。1枚載っているだけでも、カッコいいのはカッコいいんだけど。

今回の本は、チバさんが若い頃に影響を受けた私物レコードを紹介するという企画でしたが、作品を選ぶ中で新しい発見はありましたか?

チバさん

チバさん

うーん、もう新しい発見はないな。こういう企画って結構あるから。今読み直して「あのレコード忘れてるな」っていうのはあるけど。

本の中で「ハタチ前後の頃は、いろんな音楽に出会うきっかけがたくさんあった。ただ時間はないし、バイトしてバンドやって大学も行って……大変だったよ。充実していたかって? 充実感なんてまったくなかったよ」と語られていますよね。僕はこの文を読んだ瞬間、脳内でThe Birthdayの「KAMINARI TODAY」が流れ始めたんですが、あの曲はまさにこの本で語られている時代がベースになっているんでしょうか?

チバさん

チバさん

そうだね。そうやって言われたら、そうだよね。考えないで書いているからさ(笑)。

この本は多種多様なレコードが、ジャンルごとに紹介されています。ただ同時に「パンク」で紹介されているセックス・ピストルズについて「俺の印象としては「ハードロックみたいだな」って感じだった」と言っていたり、ジャンルの捉え方が独特だなとも思いました。

チバさん

チバさん

最初聴いたときはね、ハードロックみたいなだと思ったんだよね。クラッシュも「動乱」を聴いたときは、そう思ったんだけど。

マイルス・デイヴィスについても「俺にとってはロック」と語られていますよね。そのときの「ロック」ってどういうニュアンスなんですか?

チバさん

チバさん

うーん、なんだろうなぁ。マイルスは、ワイト島のフェスにザ・フーとかと一緒に出ていたりするのね。その映像を飲み屋なんかで見ていると、「おー、ロックだな」ってなるんだよ。感覚でしかないけど。

チバさんの中で、ジャンルっていうのは大事なんですか?

チバさん

チバさん

そりゃ、レコード屋で探すときに、ジャンル分けしててくれたほうが助かるからさ(笑)。ABC順でもいいんだけどさ、若い頃はそんなに知らなかったりするから、パンクってコーナーにあったら、「パンクなのかな?」って思うじゃん。それで聴いてみたりするんだよね。

そうやって音楽の世界が広がっていくと。本では「つくづく俺はパンクとロカビリーで生きてきたんだな」とも語られています。この2ジャンルにそこまで強く惹かれた理由は何だったんでしょうか?

チバさん

チバさん

ストレイ・キャッツやジョニー・サンダースに10代の頃出会って、そっからいろんな音楽を聴くようになったから、“源”のような感じがしているんだよ。ただ、ロカビリーは出会ってすぐどっぷりハマったわけじゃなくてさ。パンク、ザ・フー、(ザ・ローリング・)ストーンズ、あとはパブロックとか、そういう方をよく聴いていたから。それからしばらくして、またロカビリーを聴くようになっていった感じかな。

「USオルタナティブ」の中では、ダイナソーJrやソニック・ユースが取り上げられていますが、このジャンルの代表格とも言えるニルヴァーナはありません。もしかして、ニルヴァーナは好きじゃないんですか?

チバさん

チバさん

いやいや、聴いてたよ。何でないんだろうね(笑)。単純にアナログを持ってないだけじゃないかな。ニルヴァーナはね、たぶん俺、最初はCDで買ってんだよな。

意外なところで言うと、「サウンドトラック」の中で、ヨハン・ヨハンソンやマックス・リヒターが取り上げられていたことです。

チバさん

チバさん

うん、それはでも最近だけどね。

一般的な理解だとロックとは言えないと思うんですけど、こういう音楽も聴かれているんですね。

チバさん

チバさん

『ボーダーライン』って映画があって、それがヨハン・ヨハンソンだったんだけど、あれとか凄みがあるじゃない? そういう意味では、ロックなんじゃないの。勝手な言い方だけど。

『メッセージ』もヨハン・ヨハンソンで、あれはもうどれが音楽で、どれが効果音なのか、わかんないんだよ。

アンビエント的なものでも、ロックを感じると興味が湧くんですか?

チバさん

チバさん

うーん、そうやって言っちゃうと簡単なんだけどさ、俺もよくわかってないんだよ。だけど、好き。

ロック以外の音楽との出会いは、映画を通してが多いんですかね?

チバさん

チバさん

うーん、まぁそうかもね。サントラで言うと、ライ・クーダーなんかは『パリ、テキサス』のサントラで知ったからね。あ、『パリ、テキサス』、本には入ってないか。

ジャケは載ってませんが、インタビューページで少し触れられいました。映画としては嫌いだけど、サントラだけは好きってこともあるんですか?

チバさん

チバさん

いや、ないね。好きな映画しかサントラ買わないよ。

音楽がいいなって映画は、映画自体もいいということですか。

チバさん

チバさん

そりゃそうだよね。そういうもんじゃない? 音楽だけいい映画なんて観たことないな。そんな風に映画を観てない。

じゃあ、『メッセージ』は映画としても好きだったんですね。

チバさん

チバさん

面白かったねぇ。未だによくわかってないけど。わかんねぇなぁと思いながら、2回目3回目を観た。でも、SFは大好き。ああいう近未来SFみたいなやつ。

本に挙がってないもので、好きなSF映画はありますか?

チバさん

チバさん

『アナザー プラネット』は、面白かったね。地球がもう1個あるって話。あと、あれとかも好き、『インターステラー』。

本で登場するジャンルには、「ブリティッシュ」とか「USオルタナティブ」のように、国名が付くものもあります。ミュージシャンの住んでいる土地の空気感みたいなものが、音楽に反映されることってあると思いますか?

チバさん

チバさん

初期のパンクに関しては、出ていたんじゃないかな。ロンドンのパンクとNYのパンクは全然違うと思うし。当時のパンクは政治的な主張があったじゃない? その内容は街ごとに違ったと思うし、音楽にも出ていると思うよ。もう少し昔のロックとかだと、よくわかんないけど。

ご自身の音楽に関してはいかがですか?

チバさん

チバさん

まぁ、あるかもなぁ。

それは東京なんですか、それとも日本なんですか?

チバさん

チバさん

歌詞に限った話になっちゃうけど、曲によって違う。東京だったり、日本全部だったり、地球だったり。

今、歌詞の話が出ましたけど、この本は影響を受けた音楽について語られているわけですが、歌詞の話は一切登場しませんね。チバさんの独特のあの歌詞の世界観は、何に影響を……。

チバさん

チバさん

わからん。歌詞に関してはわからん。まぁ、音に関してもあんまりわかってないけど(笑)。だって、この本に出てるレコードの歌詞なんて、俺、ほとんどわかってないもん。カヴァーするときは、カタカナで起こして歌っているから。

じゃあ、歌詞に関しては純粋培養ってことなんですかね。

チバさん

チバさん

まぁ、そう思うけどな。何に影響を受けたかって言われてもわかんない。

歌詞は「よし書くぞ!」と思って書くんですか? それとも日頃からメモを書き溜めているんですか?

チバさん

チバさん

メモもしてるけど……でも、曲が先にできてるから。歌詞は後からの方が多い。同時に出てくるときもあるけど。

『SINGS』には「ラブレター」という曲が収録されていますけど……。

チバさん

チバさん

あー、あれは歌詞が先。

歌詞が「ですます調」なのが、印象に残りました。

チバさん

チバさん

あれはでも、俺が言っているわけじゃないんだよ。誰かが……何か1人の女の子が、消えちゃった男に対して書いた手紙というか、独白みたいな。そういうイメージで書いたんだけどね。あんまそれね、伝わってないんだよな。俺が言っているように捉えられちゃうんだよね、面白いね。

そうだったんですね。歌詞についてもう少し聞きたいんですが、『SINGS』もそうですし、The Birthdayの現時点での最新アルバム『サンバースト』なんかは特にそうなんですけど、動物がよく出てきますよね。

チバさん

チバさん

うーん、みたいだね。

動物好きなんですか?

チバさん

チバさん

別に。何も飼ってないし。大概、嫌われるから。実家の犬にも嫌われてたし。

ROSSO時代には「動物パーティ」なんて曲もありましたけど。

チバさん

チバさん

あったねぇ。あれはイメージ的に、動物をいっぱい飼ってるおばちゃん家に行って、パーティやろうっていう(笑)。あんま聞かないで、歌詞のことは。

なんで動物のことをお聞きしたかというと、「ギムレット」の「人間は結局この星の敵になっちゃったけどさ」や、「アリシア」の「地球の夢は何だろうね/俺たちがさいなくなること」という歌詞に通じると思ったからなんです。大袈裟に言えば、動物愛護や環境危機への問題意識と言うか。「ギムレット」や「アリシア」で歌っていることは、チバさん自身の認識でもあるんですか?

チバさん

チバさん

うーん、なんかやっぱりね、汚しているのは人間だけな気がするからね。

だけど、チバさんはそんな人間を全否定するわけでもなく肯定する。実際、「SINGS」や「サンバースト」では、愛について歌った曲が多くあります。今、チバさんの中で愛がキーワードなんでしょうか?

チバさん

チバさん

うーん、まぁ、なんとなくそういう思ってたんだろうね。その2作は同時進行で作っていたから。

これまでのソロ作はアンビエント的なインストが中心だったのに対し、『SINGS』は歌ものだけで構成されていますよね。どういう心境の変化だったんですか?

チバさん

チバさん

何となく今回は、全部歌でもいいかなって思ったんだよね。歌ものはバンドに持っていくっていうのが普通なんだろうけど、そうじゃなくて、他人の感覚が入れないで、1人でやってみようって。バンドに持っていったら、どうしてもみんなの感覚が入ってきちゃうから。それがいいときもあるけど、今回はそうじゃないやつをやりたいなって。

「M42」には「異常が日常になり/銃声がソナタのように/聞こえ始めたから/僕は歌うことにした」という歌詞があります。これはチバさん自身の今の心境なんですか? それとも「ラブレター」のように別のキャラクターの……。

チバさん

チバさん

いやいや、これは俺の。まぁ、でもね、その歌詞を作ったのは、2年近く前なんだよ。今出したから、ウクライナのこととかを想像するとは思うんだけど、それでもいいかなと思った。

なるほど。今はサブスクでいろんな音楽が聴ける時代ですが、どう捉えていますか? レコードを愛してやまないチバさんとしては、あんまりポジティブな印象を持ってないのかなとも想像するんですけど。

チバさん

チバさん

全然そんなことないよ。もしそれで俺が作っている音楽を聴いてもらえて、いいなって思ってくれたら、どんな形で聞こうがそれはそれでいい。音がどうこうとかっていうのもあるけどさ、どんな形式で聴いたって、カッコいいもんはカッコいい。まぁ、できれば、CD買ってほしいけど(笑)

「ポパイ」というメディアは、シティボーイに向けて作っているんですけど、最後にシティボーイ向けてメッセージをお願いしてもいいですか?

チバさん

チバさん

好きなようにやればいいと思いますよ。シティボーイが何かはよくわからないけどさ、これを読んで、ピンとくるジャケとかもあると思う。もし気になるレコードがあったら、それはちょっと聴いてみたらいいんじゃないとは思うけどね。最初はYouTubeとかでもいいんだろうしさ。

ありがとうございました。最後と言いながら、もうひとつだけどうしても確認したいことがあるんです。僕が大学に通っていた頃、まことしやかに囁かれたチバさんにまつわる都市伝説があったんです。それはチバさんがエンジニアブーツて高尾山を登ったというものなんですけど。これは真実なんですか?

チバさん

チバさん

あー、それは本当だよ(笑)。2回登った。エンジニアが一番楽なんだよ。エンジニアはね、よくできていて、そこら辺のスニーカーで行くより絶対にいいと思うけどな。足首も守ってくれるし。1回目か2回目か忘れたけど、イマイ(アキノブ)くんとも登ったよ。そしたら、The Birthdayを辞めちゃった(笑)。まぁ、それは冗談なんだけど。っていうか、なんで知ってんだよ、そんな話!

インフォメーション

EVE OF DESTRUCTION

チバユウスケというミュージシャンは、どんな音楽でできあがっているのか? 「PUNK」「PUB ROCK」「SOUND TRACK」「JAZZ」などジャンルごとに、自身の音楽的ルーツを語った1冊。私物のレコードコレクションやロックTの写真も満載。¥2,750/株式会社ソウ・スウィート・パブリッシング

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プロフィール

チバユウスケ

ちば・ゆうすけ|1968年、神奈川県生まれ。1996年、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTでメジャーデビュー。2003年にTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを解散した後、いくつかのバンドを経て、2006年にThe Birthdayを結成して今に至る。The Birthdayとしての最新アルバムは『サンバースト』。また、2022年8月にはソロ名義であるYUSUKE CHIBA-SNAKE ON THE BEACH-として3rdアルバム『SINGS』をリリースした。

10月10日からは原宿KIT GalleryにてPHOTO EXHIBITION 『SINGS』を開催。The Birthdayでは10月26日札幌を皮切りにTOUR 2022 『GO WEST.YOUNGMAN』で12月8日中野サンプラザホールまで全12公演を廻る。

Official Website
https://rockin-blues.com/thebirthday/