カルチャー

仮面専門店『仮面屋おもて』へ行くと思わぬニューフェイスに出会った。

東京博物館散策 Vol.7

photo: Koh Akazawa
text: Miu Nakamura
edit: Toromatsu

2025年2月2日

 東京の端に向かうとまだまだ知らない良い店がいっぱいありそう……と思い京浜曳舟駅を散策。この街には都築響一さんの私設ミュージアム『大道芸術館』や、東武鉄道の歴史や文化を紹介した『東武博物館』もあるだけに、読みは的中。駅を降りてすぐの『鳩の街通り商店街』と『キラキラ橘商店街』を歩くだけでいくつもの個性的な店に出会えた。

 特に興味が湧いたのが『仮面屋おもて』。外から見ても、中にいろんな種類の面が飾られているのがわかるここはその名の通りの仮面専門店。身体を小さくしてくぐらないといけない小さな扉から店内に入ると、1階には全国から集められた大量のヴィンテージものが並び、2階には仮面作家のアートピースがラインナップ。民族的なものも、屋台で売ってそうなものも、多種多様な“顔”が販売されているのだ。

「好きで始めたというわけではないんです……」と店主の大川原脩平(おおかわら・しゅうへい)さん。決して仮面におけるマニア、というわけではなく、元々舞踊をやっていて練習で使われる仮面を、捨てられるなら他の人の手に渡るようにと、この店を始めたみたい。

「いろんな人が持ってきたりしてどんどん集まってきます。お客様によっても用途はさまざま。舞踊で使う人もいますし、美術品として購入する人もいますし、劇で使う人も。ときには、昔ながらの狐のお面なんかを求めて、中学生くらいの子がお金を握りしめてやってくることもありますよ」

古いもので100年前くらいのものも。
家の玄関の雰囲気を上げるために
ぴったりな一つを見つけたくなる。

大正時代に建てられた長屋のため、
二階に上がる階段の幅も狭く急。
一点ものの宝を探すワクワクが高まる。

伝統的なルックスのものからアーティストの
作品まで所狭しと飾られている。
見逃さないよう、じっくりと時間をかけて見ていく。

将棋盤を使ったこのオブジェは、仮面作家・坂爪康太郎さんによるもの。この仮面のモチーフを用いて、板や箱にドッキングしたもの以外にも多様な形態の作品を制作している。

大石麻央さんのニードルフェルトという技法で作られたイグアナの仮面。「着けるも飾るも自由です。」と大川原さん。決められた用途がないからこそ、自分だけの愛し方が見つけられるのかもしれない。

“顔を隠す”という行為は古来から世界各地で行われていたゆえ、仮面の起源や用途を掘ると果てしない(アフリカの洞窟壁画に仮面を使った絵が描かれていることから紀元前4000年頃にはすでに存在していたみたい……)。ここ日本では神や精霊をかたどった面を着けることで神格が宿るとされていたともいうし、中世ヨーロッパで開催されていた仮面舞踏会では、顔を隠すことによって王侯貴族らの良い息抜きとなっていたという。お祭りでよく戦隊モノのお面が売られていたりするが、そういうルーツまで探っていくと凄い論文が書けてしまいそうだ。

 2階へ上がるとドキリ……。いなかったはずの人の気配を感じた。この店のおもしろいところは、買い入れたものや仮面作家の作品以外に、人の顔を買い、仮面に落とし込んだオリジナルも販売しているところ。人間の顔をスキャンし、肌の細かな凹凸からシワ、毛の一本に至るまで巧妙に再現されているのだが、これが装着すると驚くほどに馴染むから凄い。

 今のところ、取り扱われている”顔”は僅か3種。実は、顔を売りたいという問い合わせは頻繁にくるらしいが、実在する人の顔を扱うということで、その条件はとても厳しいのだそう。バーチャルリアリティが一家に一台という時代もそう遠くなくなってきた現代に、最もプリミティブに“違う自分”になれる方法を発見した。

実際に装着した姿をみてみると、いつもの顔が仮面に置き換わっているだけなのに、別のキャラクターになったかのようで、不思議な感覚になった。

 昨今は画像の加工技術が進歩し、身近に違う自分になれる時代が来ているが、ひとつひとつに道具としての魅力が備わっている仮面とそれとではまったく別物。どうせ演じるなら、この店でそれぞれの仮面のルーツに向き合い、異なる“面”を手に入れてみるのも面白いかも?

インフォメーション

仮面専門店『仮面屋おもて』へ行くと思わぬニューフェイスに出会った。

仮面屋おもて

キラキラ橘商店街の一角にある博物館さながらの店舗。古い家屋を店舗利用しているため冬は大丈夫だが、夏は空調が効きにくくかなり過酷!営業中も店主が商店街の涼しいところに散歩(避難)していることがしばしばあるので、近隣を歩いて店主を探してみよう。どうしても見つからないという場合には、下記へ電話を。

◯東京都墨田区京島3-20-5 ☎︎070・5089・6271 13:00〜18:00 土・日のみ営業、不定休。営業日の最新の情報はウェブサイト、またはXをチェック。

Official Website
https://kamenyaomote.com/

X
https://x.com/maskshopOMOTE/