フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.6
🇫🇷 『ルグドゥノム・ブション・リヨネ』クリストフ・ポコさん/インタビュー土井光
2022年5月28日
海外から来た方が日本でオープンした外国料理の店は、味はもちろんだけど、それと同じくらい店主の人柄や考え方が魅力的だったりする。各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の名店の店主を料理家の土井光さんと巡るコラム!
私の長いフランス時代を過ごした街、リヨンの郷土料理が味わえるフランス料理のお店のご紹介です! シェフのポコさんは、生粋のリヨン人の素敵なシェフ。リヨンはフランスの美食の街。日本の大阪のような場所です。そこの郷土料理をポコさんが神楽坂らしく、美しく、食べやすく、日本人も楽しめるお料理に仕立て上げてくれています。店内もフランスのブラスリーを思わせる佇まい。フランス料理は難しい……? と思われている方にも是非おすすめしたくなる、気持ちのよいフランス料理のお店です!
クリストフさんとは何度か一緒にお仕事をさせていただいていますが、改めて今日はよろしくお願いします! まずは日本人にはあまり馴染みのない、この店の形態である“ブション”について少し説明していただけますか?
よろしくお願いします! ブションは、私の故郷であるフランス・リヨンの郷土料理とワインが楽しめるレストランのことですね。もともとはフランス語でリヨンの母たち”という意味のメール・リヨネーズと呼ばれる女性シェフたちが、庶民的でボリューミーな料理を振舞う店を19世紀頃に自分たちで構えたのが始まり。『ラ・メール・ブラジエ』、『ラ・メール・フィリユー』など、メール・リヨネーズが作ったブションが有名ですね。ブションの説明はHPにも載ってますよ。
ブションは朝食も食べられるんですよね。
はい。ブションで食べる朝食のことをマショネといいます。この店ではマショネはやってないですけど、当時カニュと呼ばれる絹織物職人のために、メール・リヨネーズがボリュームのある朝食を作っていたんです。今でもマショネを楽しめるブションはリヨンにありますよ。
そんな歴史があったのですね! クリストフさんは、来日してすぐにこの店を作ったのですか?
1998年に来日して、はじめはフランス料理とお菓子の学校「ル・コルドン・ブルー」の東京校で2年間教師をしてました。そのあと、「ソフィテル東京」というブティックホテルのオープニングからクローズする2006年まで、総料理長をやっていましたね。実際に店を構えたのは、ホテルがクローズしたあとの2007年9月からで、今年で15年ですね! コロナ前は、知り合いのパティシエやショコラティエやシェフが毎年何人も訪れてくれましたよ。
リヨンには戻らずに、なぜ東京でブションを始めたのですか?
ありがたいことに、総料理長のときから雑誌掲載などで多くの人に知っていただいたり、常連さんもいてくださったのが大きいですね。それから、ホテルは客室が83室と少なめで、従業員も60人程度。全員の顔も分かっていたから働きやすかったんですよ。そういう小さな場所で、自分らしい雰囲気が出せる店をやりたいと思い、ホテルを辞めてすぐに今の店がある場所を見つけて、翌月にはもう契約してましたね。
すごいスピード! このリヨン感溢れる内装はクリストフさんが考えたんですか?
はい。まず建物も建っていなかったので、オープンするまでの9ヶ月間でリヨンに帰って、床や樫の木のテーブル、椅子、カトラリー、バーカウンター、ワインセラー、壁に飾ったリヨン陶器のアンティークのお皿などすべて現地で選びました。この店内を見て、リヨンに来たみたいだと言ってくれるお客さんが多いですね! ビストロや本格的なフレンチなら東京にも多いですし、有名なシェフもいますが、リヨン出身の自分がブションとして店を構えて、本場の雰囲気を伝えたいですね。
2階に繋がる螺旋階段にも、リヨンらしさを感じますね。
1900年代のリヨンの螺旋階段のイメージを日本の職人に伝えてオーダーメイドしたものなんです。本場のはもっと小さめで大人が1人通れるくらいだけど、日本の法律に合わせて幅を広めに作っています。螺旋階段はすごく気に入っていますね。
豚の血と脂肪で作るブーダン・ノワールなどのブションならではの料理も味わえて、リヨンにいた頃がとても懐かしくなります!
うちのブーダン・ノワールはリンゴも使っているので爽やかで食べやすいと思います。ブションの伝統的な料理は、パテやソーセージなどの内臓系が多いですが、リヨン風クネルでも使っている白身魚だったり、レンズ豆のような豆系もよく使いますね。
そういえば、本場だと1皿の量がものすごく多くてとてもじゃないけどデザートまで辿り着きませんが、ここの店は量がちょうどいいのも好きなんですよね。
たしかにリヨン料理は量が多くて重いかもしれないですね。この店の10年記念のときに店を閉めて、スタッフ全員でリヨンに社員旅行へ行ったんですけど、いろんなレストランを見て、生産者を訪ねて、昼も夜も食べたらみんなお腹いっぱいになってしまって(笑)。でも、この店では「もう一皿食べたい」と思えるくらいの量を意識していています。デザートまで食べられますよ。
食器も、本場のカジュアルで家庭的な感じに比べて、こだわりが見えますよね。水を飲む時のグラスですら、オーストリアの〈リーデル〉じゃないですか! とても素敵。
そうなんです。お皿はフランスの〈ベルナルド〉を選んでいます。料理の味や内装はリヨンの伝統をそのまま伝えたいですが、日本のホテルで働いたキャリアがある分、リヨンっぽさ全開というよりは、少しでも自分らしいアレンジを出せたらなと思っているんです。
なるほどですね。ミシュラン東京の一つ星も2011年版から12回連続だそうですね。しかも、ブションでミシュランをとっているのは世界中でもここだけだとか!
とてもありがたいです。この店はソーセージなどもフレッシュな食材で手作りしているのですが、意外と本場ではしっかり手作りしているブションは少ないんです。美食の街といわれるリヨンだからこそ惣菜屋に売っているものでも美味しいので、買ってきて温めたものを出すような店も中にはあるんですよ。
たしかに、スーパーに売っているようなものでもクオリティが高いですからね。
そうです。でもそれではブションとはいえないですし、リヨン料理を出していない店でもブションと謳っていて観光客が間違えて入ってしまうこともあるので、そういうことを防ぐためにもブション・リヨネ協会が出しているラベルがあります。これが貼ってあれば、歴としたブションと分かる。この店も入り口に貼ってます。
描かれているのは、リヨンの指人形劇「ギニョール」に出てくる、ニャフロンという酔っぱらいのキャラクター。
美食の街といわれるだけあって、その代表的なブションにプライドがあるんですよね。
フランス料理を世界に広めたと言われている有名なシェフ、ポール・ボキューズが生まれた場所ですし、2年に1度のフランス料理の世界大会「ボキューズ・ドール」や、私が審査員もしているパテ・アン・クルートのコンテスト「パテ・クルート世界選手権」が開催される街でもあるので。そんなリヨンの美食を、東京のこの店で味わってもらえたら嬉しいです!
インフォメーション
LUGDUNUM Bouchon Lyonnais
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