TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】マクドナルドは味がしない

執筆:宇津木陽多

2026年9月2日

4月で30歳になり、食に無頓着な僕もようやく少しだけ食べ物の「味」がわかるようになってきたのかもしれない。美味しいとは、なんなのだろうか。

考えてみると、服については昔から似たようなことを知っていたのかもしれない。

僕は服を選ぶことには昔から時間を使ってきた。家を出る際に着るものを間違えたと思うと、それだけで一日なんとなく気分が悪い。正直、わざわざ戻って服を変えることだってある。

生きていくだけなら服は身体を覆えればいいし、何を着たって大した問題ではないはずだ。それでも僕にとって、「今日は何を着ようかな」と考えることは、昔から一日の中で結構大事なことだった。

食事だって、本当は同じだったのかもしれない。

食べるものを選んだり、誰かと飯を食べながらどうでもいい話をしたりする。何を食べるか、誰と食べるかで、一日の感じ方は少しずつ変わっている。考えてみれば、服にはずいぶんお金も時間も使ってきたのに、食事についてはほとんど考えてこなかった。

僕は今まで空腹を終わらせることが食事だと思っていた。

僕がマクドナルドを「味がしない」ものにしていた理由も、今ならわかる。

服を着替えるためには家まで戻るのに、昼飯のために少し遠回りすることはほとんどなかった。車の中で飯を食べながら、気にしていたのは味より次の予定の時間だった。

空腹という問題が発生する。食べてお腹を満たして解決する。僕は食事についてずっとそんなふうに無機質に対応してきた。いつも食事そのものより、その先にあるものの方を大事にしていた。

人生で何度も繰り返すことを、ただそうやってこなしていると、食べ物から味が消えたように、うっかりと日々そのものからも味が消えていくのかもしれない。

食べることも、着ることも、誰かと過ごすことも、仕事も、何か特別な瞬間までのつなぎではない。当たり前のことだけど、その一つひとつが人生なのだ。

30になってそんなことに気づいたからといって、急に毎日の食事をちゃんと味わえるようになるわけではないし、時間がなければ急いで済ませる日だってある。

僕はこれからもマクドナルドを食べるだろう。

モバイルオーダーで注文して、少し車を停めていれば、ほとんど待たずに受け取れる。ハンバーガーの形が崩れていたって、誰も気にしないような飯を片手で食べる。急いでる時は温かいだけでもありがたいのだ。

そんな「味がしない」食事が必要な日は誰だってある。だからマクドナルドは今日もそこにいてくれるのだろう。

プロフィール

宇津木陽多

うつぎ・ようた|東京都生まれ。文化服装学院出身。在学時に第92回「装苑賞」で佳作1位を受賞。その後渡英し、ロンドン芸術大学(UAL)でアートとデザインを学ぶ。帰国後は自身のブランド準備を進め、株式会社ウツギヤでメンズライン「UTGY」を2024年よりスタート。母は「フラボア(FRABOIS)」「メルシーボークー(mercibeaucoup,)」を手掛けてきたデザイナーの宇津木えり。

https://www.instagram.com/utgyofficial/