TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】暮らしをつむぐ

執筆:うすいはるか

2026年9月12日

 日記を書いていると話すと、ときどき「毎日よく書くことがあるね」と言われる。自分も書いてみたいと思うけれど、毎日が同じことの繰り返しだから、三日坊主になってしまうのだと。
 けれど、ほんとうに同じことしか繰り返さない人がいるのだろうか。

 私の日々も、とくべつなことはそうそう起こらない。朝起きて、ごはんを食べて、仕事へ行く。たまの休日は、ほとんど家でひとりで過ごしている。代わり映えしない毎日だからこそ、慌ただしければ見逃してしまう、ささやかな光や陰りに気づけるのだと思っている。

 たとえば今朝は、犬の鳴き声で目が覚めた。
「吠える」にも「黙る」にも、漢字のなかには犬がいて、この子は「吠える」の字にいる犬なのだな。薄目をあけて、漂うように思っているうちに、さっきまで見ていた夢の気配が遠ざかる。
 まだ眠っていていい時間だった。明暗だけだった部屋に、色彩が伴いだす時間。剃り残した腕の産毛に淡い光が宿っているのを、ふたたび眠くなるまで見ていた。

 また、別のある日。
 割引クーポンの使用期限が今日までと気づき、駅前のドラッグストアへ行く。今すぐほしいものはなかったけれど、いずれ使うものだからと、シャンプーの詰め替えを買った。
 とくに何も考えず、いちばん容量の多いものに手を伸ばしたとき、「そうか、私、まだ生きるつもりなんだな」と思った。仕事を頑張ると決めたときでも、健康に気をつけようと思ったときでもなく、大きな詰め替えを買ったときに、自分は生きてゆくつもりなのだとわかって、背筋が少しだけのびた。

 先週、仕事中にため息をついた私のとなりで、後輩の女の子がスーッと息を吸った。
 何をしてるの、と聞くと、「うすいさんのため息を、私の吸い込みで相殺しています」と言う。この子が食べるくだものが、いつもとびきり甘ければいいと思った。

 私の毎日は、こんなことの繰り返しだ。
 二度寝して、ドラッグストアへ買い物に行き、仕事をする。一行で説明できる時間のなかに、忘れるには惜しい気がする瞬間があって、それをなるべく丁寧に切り取ってみれば、ふしぎだ。

 何もなかった一日が、無性にいとしい。

プロフィール

うすいはるか

1987年生まれ、東京都出身。2024年頃から、SNSを中心に生活をつづりはじめる。2026年に初書籍『すこやかなひとりぼっちの守り方』(KADOKAWA)を上梓。

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