TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】地元の街で遊ぶように暮らす

執筆:パリッコ

2026年8月29日

パリッコ


text & illustration: paricco
edit: Shinji Yokota

この連載の第1回にもちらりと登場したが、かつて石神井の街に「スタンド・ブックス」という出版社があった。

現在は太田出版の代表取締役社長をされている森山裕之さんが、自分が世に出したいと思う本を作るために立ち上げた小さな出版社。昔ながらの平屋の古民家をリノベーションした建物で、その味わい深さは写真を1枚でも見てもらえたらきっと伝わると思う。

現在その建物は、有志数名によって「石小屋」という名で保存されている。なんらかの店舗であるとか、地域の集会所であるとか、レンタルスペースであるとかの明確な目的のある場では、今はまだない。けれども誰かが守り続けなければ、この愛しき小屋は一瞬で真新しい建売住宅になってしまうことだろう。それがあまりにも惜しいという地元の数人が集まってなんとか維持している状態で、実は僕もそのひとりだ。

この小屋の雰囲気が本当に良く、しかも可能性にあふれている。部屋はメインルームとサブルームのふたつで、それと簡単なキッチン、ウッドデッキ。かつての浴室は倉庫として使われている。

隣の土地がちょっとした森になっていて、畳の上で蝉の声を聞きながら昼寝でもすれば、いつか田舎で過ごした夏休みの思い出がそのまま再現される。

現状、明確な定義がないので、逆に考えればどこまでも自由に使えるということでもある。僕の場合は、気分を変えて原稿を書きたいときや、仕事にまつわるちょっとした撮影、打ち合わせなどにはとても便利に使っている。

また、クリエイターのコダマタイチさんと一緒にやっているYouTubeチャンネル「パリコダマ」では、もう少し大がかりな料理番組的動画も、ここで撮影させてもらっている。一般的なキッチンスタジオとも違う独特の雰囲気が、飲みながらゆるゆると料理を作るというコンセプトにばっちり合っていて、まるで専用に作ったセットのようだ。

この夏からは、同じくコダマさんと「パリコダマ酒場」というイベントを始めた。初回はテスト的に、我々の活動を応援してくれている方々との交流会的な内容になったが、企画中の第2弾では、これまた石神井つながりで知り合ったミュージシャンの方にアコースティックライブをしてもらおうと画策したりもしている。もちろんご近所迷惑にならないよう細心の注意は払いつつだが、あの空間に生歌とギターが響いたらと想像しただけで、絶対に最高に違いない。

他、石小屋メンバー間でも、より地域貢献的なワークショップのアイデアが出たりしていて、そもそもたまに小屋に集まって開かれる、会議という名の飲み会が、毎回楽しすぎるのだ。こうやってあらためて考えてみると、あーだこーだと夢を語るその会議ができるというだけで、自分たちにとってはじゅうぶんに幸せな場所なのかもしれない。

プロフィール

パリッコ

ぱりっこ|酒場ライター。1978年、東京生まれ。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。

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