TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】地元の街で遊ぶように暮らす

執筆:パリッコ

2026年8月22日

西武池袋線の石神井公園駅南口改札目の前に『_CONVENI(バーコンビニ)』という店がオープンしたのは、ちょうど1年前のことだ。ここが、石神井の街の楽しさを体現するような不思議な場所なんだけど、“どういう店”と具体的に説明するのはなかなか難しい。

もともとこの場所は西武鉄道が所有する敷地内の、ごく普通のコンビニだった。そこが閉店した際、地域貢献の場として活用できないか? という案が社内から出たそうで、売り上げ至上主義に走らないその方針が、まずとても素晴らしいと思う。

ところで、地元の縁で以前からよく顔を合わせていた友達に、深津康幸さんという方がいる。地元を盛り上げるさまざまな活動をされていて、西武との仕事実績も多い方だ。その深津さんがこの場所を、西武線沿線の魅力が詰まった“道の駅”のような店にするのはどうか? と提案し、それが実現したのがバーコンビニというわけだ。

撮影:風香 @fuuusampo

店名の「バー」は「BAR」の意味ではなく「_(アンダーバー)」。その上は空白になっているから、なんでも自由に当てはめて楽しめる場にしたいという想いが込められているそうだ。店内にはそれをもじって、緑色のバーがたくさん立っていて、そこにかつて実際に西武鉄道で使われていた吊革がぶら下がっていたりして、かなり独特な空間。

で、難しいながらもここがどんな店かを説明するならば、「沿線に縁のある手作りのものが手に入る道の駅」でありながら「カフェ」や「飲み屋」や「食堂」としても利用できる店。さらにたとえば、お隣の大泉学園で人気の『bèe』のパンが定期的に入荷するから、それを目当てに訪れる人もいるし、地元の農家でとれた新鮮な野菜が並べば、八百屋にもなる。週末を中心に、多彩なイベントも行われている。

最近はオリジナル商品の開発にも力を入れていて、豆乳ブランド〈Peace Soy Milk〉とタッグを組み、埼玉県秩父地域で大正時代から受け継がれてきた在来種である大豆を使った豆腐や豆乳を発売。地元発というストーリーが沿線民としてなんだか誇らしいし、しかもこれが、本気でうまい。

また実は、僕の書籍や、プロデュースした酒器、自分でデザインしたTシャツなどのグッズまで扱ってもらっていて、恥ずかしながら棚の一角には「パリッココーナー」まである。自分の住む街にそんな店が存在するなんて、幸運にもほどがある。

ちなみにTシャツは現在、地元にちなんだモチーフである「石神井公園」「練馬っ子」の2種類を販売中。どちらも実店舗ではここでしか手に入らないのが、なんだか道の駅っぽい。あ、ちなみにオンラインでは購入できるので、気になった方はプロフィールのXからリンクなどをたどってみてください(宣伝)。

そしてバーコンビニの魅力を担うもうひとつの大きな要素といえば、店主、としこさんの存在。

長く飲食業に携わっていたとしこさんは、これまた街の縁で深津さんと知り合い、バーコンビニの開店にあたって店主のオファーを受けた。当時は一時休職中で、次に働く場所もほぼ決まっていたものの、こんなにおもしろそうなことはない! と、即座にその話にのったのだとか。

その明るいキャラクターと手際の良い仕事っぷりは、まさに飲食業の鏡。なにしろいつも利用している駅前にあるから、昼でも夜でもつい一杯やりに寄ってしまう。すると必ずとしこさんがいるし、また、としこさんを慕う顔見知りの常連客の誰かもたいていいるから、世間話に花が咲く。ご近所にあってほしい理想的な店だ。

飲食メニューも日々進化していて、最近はついに酒場でおなじみの赤い短冊まで導入されていた。どのメニューにも、使われている素材にも、沿線に絡んだストーリーがあるのが楽しい。

僕の定番は「生レモンサワー」(税込580円)の、プラス20円の濃いめ。ドリンクメニューは豊富で、ワインにも詳しいとしこさんが厳選したナチュラルワインも人気だ。

先日訪れた時はちょっと小腹が減っていたので、練馬区産のなすを使った「とろ茄子のごま照り」(400円)と、東久留米市にある手作り生ハム、パテ、サラミの店『シャルキュトゥリー モエ』の「モエ特製レバーパテ」(580円)をつまみにもらってみた。

とろりと甘辛いなすがレモンサワーの酸味とばっちり合うし、ぎゅぎゅっと旨味のつまったレバーパテも極上。あぁ、なんという天国なんだここは……。僕のもうひとつの定番「狭山茶割り(濃いめ)」(600円)のおかわりは不可避だな。

ところでバーコンビニのすごいところは、冒頭で少しふれた「イベント」の要素にもある。

沿線にまつわるフードやお酒のイベント、ワークショップにDJイベントなどが頻繁に開催されていて、本当に自由な場だと感動する。図々しいことに、沿線に住んでいるライターであるという理由だけで、実は僕も何度もイベントをやらせてもらっている。

先日は“バーコンビニを1日限定の酒場にしよう”というコンセプトのもと「居酒屋パリッコ」というイベントを開催させてもらった。ふだんはメニューにないプレーンチューハイや、商店街にある『肉のタナカ』から仕入れたシューマイやハムカツ、それから僕のレシピをもとに仕込んでもらった肉豆腐などを、いつものメニューに加えて提供するだけという内容だったが、ありがたいことに大盛況。改札を出たら5秒で居酒屋パリッコ。あらためて、こんな遊びを許してもらえる場所が地元にあることが、奇跡だと思う。

というわけで、日々どんどん楽しい場所に進化し続けるバーコンビニだけど、チェーンのカフェやコンビニのようにわかりやすい外観ではないから、まだまだふらりと入ってくる一見さんが多いというわけではないらしい。なんともったいないことか。

気軽に入って店内を一周するだけでも、コーヒーを一杯飲むだけでも、なんなら昼から酒を飲んでしまったっていい自由な店だ。お近くにお寄りの際は、ぜひ気軽に覗いてみてください。その際、僕がカウンターのすみで飲んでいるかもしれないので、もし良かったら乾杯しましょう。

プロフィール

パリッコ

ぱりっこ|酒場ライター。1978年、東京生まれ。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。

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