TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】記憶の中のカレー

執筆:U-zhaan(ユザーン)

2026年5月1日

 クレアモールを川越駅側から入って少し歩くと、左側に『名代 富士そば』が見えてくる。金曜と土曜は24時間営業をしている、頼もしい店だ。あの場所が富士そばになってから30年近く経つので、すっかり街の風景として馴染んでいるように見える。

 富士そばができる前、まだクレアモールがサンロードと呼ばれていた頃、あの場所には何があったか覚えているだろうか。
 実は、あそこはカレー屋だったのだ。店名は『かれいど』。ラーメン屋とカレー屋が中で繋がっているような、ちょっと変わった作りの店だったと思う。高校の同級生だった荒川くんがあの店のファンで、お腹が空くたびに「あー、かれいど食いてえ」と言っていた記憶がある。
 その『かれいど』が、なんと『NEWかれいど』として復活を遂げたというニュースを耳にしたのはつい最近のことだ。当時『かれいど』で働いていた人が、かつての味を再現したらしい。それはすぐにでも行かねばならない。

 『NEWかれいど』は、旧市街にある蓮馨寺というお寺のそばにあった。以前の店舗からはかなり離れた場所だ。道中で、蓮馨寺の向かいにあるレコード店の店主から「ユザーンさん、こんな時間にこんなとこで何してるんですか。え、かれいどでカレー食べるだけ? なんだか楽しそうな人生ですね」と言われ、楽しそうに見えるなら何よりだなと思った。
 さて店内に入ってみると、カウンター席は全て、外国から来た観光客らしき人たちで埋まっていた。たぶん話しているのは中国語だろう。彼らはきっと昔の『かれいど』を懐かしんできたわけではないだろうな、と思いながら食券の券売機の前に立つ。
 昔と同じように、カレーとラーメンの二枚看板のようだ。カツカレーが人気だった覚えがあるからそれにしようかと、三元豚カツカレー 1,900円のボタンを押す。当時は3分の1ぐらいの値段だった気がするけれど、このご時世だし仕方がない。
 席に座ってしばらくしてからカツカレーは登場した。注文を受けてからカツを揚げているのだろうか、きれいな狐色の衣は見るからに美味しそうだ。さっと1枚だけ写真を撮り、ライス少しとカレーたっぷりをスプーンですくって口に運ぶ。
 普通においしい。ただ、懐かしさは全く感じない。これは本当に「かつての味を再現」しているのだろうか。カツをかじろうが、どれだけ食べ進もうが、僕の舌は当時の記憶を呼び起こすことができなかった。

 店を出てすぐにスマートフォンを開き、Googleマップや食べログのレビューを読んだ。「一口食べると学生時代が蘇ってきます」「カレーは昔のかれいどのままでした」「昔の味そのもの」などの文字が並ぶところを見るに、やはりきちんと味は再現されているのだろう。
 となると、僕が『かれいど』の味を覚えていないのだ。それどころか、もしかすると僕は『かれいど』のカレーを食べたことがなかったのかもしれない。
 父親に電話をして「サンロードにあった『かれいど』というカレー屋に、我々は一緒に行ったことがありますか」と聞いてみた。彼は少し考えてから「そんな名前のカレー屋が存在したことすら覚えていない」と言った。
 だとすると、僕の頭に浮かぶ旧店舗の店内の様子は一体なんなのだろう。記憶の中のカレーに、味がしなくなってきた。

プロフィール

U-zhaan(ユザーン)

ゆざーん|1977年、埼玉県川越生まれ。インドの打楽器、タブラの奏者。2025年に坂本龍一、Cornelius、ハナレグミなどをゲストに迎えた11年ぶりのアルバム『Tabla Dhi, Tabla Dha』をリリースした。ベンガル料理レシピ本やレトルトカレーを監修するなど、幅広く活躍中。

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