TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】記憶の中のカレー

執筆:U-zhaan(ユザーン)

2026年4月24日

 今まで、数多くのインド料理店を訪れてきた。そして、気に入った店は何度もリピートしてきた。
 もし、僕が訪問した回数だけでランキングを付けるなら(路上のカティ・ロール屋やチャイ屋は除く)、

1. Roy Hotel (Kolkata)
2. Tarun Niketan (Kolkata)
3. Ratna Cafe (Chennai)
4. Banana Leaf (Kolkata)
5. Vaishali (Mumbai)

という順になるだろう。インドの店ばかりである。

 これを日本国内だけに限定して考えると、1位は確実に川越の『びんでぃ』だ。
 最初に行ったのは、たぶんまだ90年代だったと思う。「なんかインド料理屋がロヂャースの裏のほうにできたらしいのよ」と母親から聞いて、何かの間違いではなかろうかと思ったのを覚えている。当時のその辺りは、決して飲食店が繁盛しそうな地域ではなかったのだ。
 訝しく思いながらも自転車で様子を見に行ってみたら、店は本当にあった。せっかくなので中に入り、パラックパニール(ほうれん草とカッテージチーズのカレー)を注文した。パンジャビドレスを着た女性オーナーから「ターメリックライスとナンが選べるんですけど、どっちにします?」と聞かれたので、ナンを選んだ。しばらくして運ばれてきた料理の予想以上に本格的なおいしさに驚き、それから機会あるごとに店を訪れるようになった。

 顔見知りになるうちに僕がタブラを叩くこともオーナーに伝わり、たまに店でインド料理ディナー付きのライブをやらせてくれるようになった。平均すると、2年に1度くらいのペースだっただろうか。
 演奏前にオーナーが来場者に挨拶をするのだが、毎回その挨拶の中で、これ以上ないくらいに僕のことを大げさに褒めちぎって紹介するのが恥ずかしかった。地元なので両親が聴きにくることもあり、それもまた照れ臭かった。
 僕が本やCDをリリースした時には、レジ前の一番いいところに並べて販売してくれた。委託販売手数料として売り上げの何割かを渡そうとしても、受け取ってはくれなかった。

 2020年の春、久しぶりに『びんでぃ』でのライブを予定していたのだけれど、新型コロナウィルスの影響で中止になってしまった。ステイホームが唱えられる中、実家にもなかなか帰りにくくなり、必然的に『びんでぃ』からも足が遠のいた。年に数回しか帰省できない状況だと、さすがに夕飯時に1人で行きつけのインド料理屋へ向かうわけにもいかない。家で食べるべきだ。
 まあコロナが落ち着いたらまた行けるしな、と思っていたが、2023年の春に『びんでぃ』閉店の報を受けた。もうオーナーも後期高齢者に差し掛かるはずだし仕方ないことなのだけれど、いつでも行けると思っていた場所がなくなるのはやはり寂しかった。

 オーナーの知り合いのネパール人が同じ場所で店名を変えて店を引き継いだと聞いたが、僕はまだそこへ行っていない。『びんでぃ』の店先には、店のシンボルとしてピンク色の大きな象のオブジェが置かれていた。きっともう、あそこにあの象はいないだろう。それを見るのがちょっと辛いのだ。

プロフィール

U-zhaan(ユザーン)

ゆざーん|1977年、埼玉県川越生まれ。インドの打楽器、タブラの奏者。2025年に坂本龍一、Cornelius、ハナレグミなどをゲストに迎えた11年ぶりのアルバム『Tabla Dhi, Tabla Dha』をリリースした。ベンガル料理レシピ本やレトルトカレーを監修するなど、幅広く活躍中。

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