ライフスタイル
八ヶ岳の麓へ
あたらしい私のいえは、東京 森のいえ Vol.6
photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki
2026年4月26日
photo: Masaru Tatsuki
集落に住む陶芸家の人が、丸く伸ばした土の塊を持って家を訪ねてきた。これ、何ですか?と聞くと、その人はにんまりとした顔でヨウの手や足の型を取るのはどうだろう、と言う。とても嬉しい。トシキの帰りを待って早速手と足の型を取った。次の窯入れは6月頃になるそうで焼き上がりがとても楽しみである。
村で新しい水源ルートの工事に予算がつき、自治会として引き受けることになった。トシキを含めた集落の人たちは休日に工事へ出かけていった。ルートを決め、距離を計り、水が湧いている場所からタンクまでホースをつなぐ。1カ月ほどで無事に新しい水源からもタンクへ水が流れるようになった。水源からタンクまでは距離にして400メートルほど。道なき道にホースを通すのは大変な作業だったと思う。簡単には水は流れていかず、試行錯誤を繰り返しながらだったそうだ。まだまだ雨量は少ないので、生活する為の水が十分なわけではないが、我が家を含めた10世帯程が今その水を飲んで暮らしている。
今年の雨量の少なさ故の水不足に対して、自分たちで水を引いてきてしまう集落の人たちの逞しさには頭が下がるし、心強いものがあった。
工事がひと段落して、私達家族は旅に出た。帰省以外の遠征はヨウははじめてのこと。ヨウが産まれる前からよく訪れていた八ヶ岳の麓へ出かけることにした。別荘があるエリアとは違って、一面田んぼが広がる小さな集落に建つ宿が今回の目的地だ。宿は予約が完了すると、住所が送られてくる仕組み。小さな集落で宿を運営することに対していくつもの独自ルールがあり、それは集落に住む人たちの生活を守っているのだなと想像した。道中、いつものコーヒー屋で豆を調達し、お酒を買い、友人の営む花屋に顔を出して宿につく。早い時間からチェックインして、とにかくゆっくり過ごした。翌朝外に出て、宿の裏手にある高台まで少し歩き、田植え前の田んぼを見下ろす。我が家のある集落と同じように山々はあるのに空が広くて違う気持ち良さがある。高台には小さな墓地があり、その脇には老木の大きなしだれ桜が満開だった。春らしい少し強めの風が吹く中、ヨウが産まれてから半年という時間が流れていたことを実感する。もう季節は暖かいんだと。
夕方には檜原村へ戻り、村の食堂で夕食を済ませて帰宅。ヨウは旅に疲れたのか家に帰った途端に思いっきり泣き始め、お風呂も入らずに寝てしまった。翌朝、郵便物を取りに玄関を出ると、地面にはたんぽぽが咲き、山椒が芽吹きはじめていた。ここにも、暖かい季節が来ているんだと嬉しくなる。その日は冷蔵庫にある豚肉と山椒で鍋をした。翌日にはいただきものの筍を煮て、この日も山椒と一緒に食べた。集落に咲く八重桜は、例年より早く満開になりそうだ。
プロフィール
社本真里
しゃもと・まり | 1990年代、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて5年程生活。現在は村内の林業会社に勤めながら、家族で森の中の古いログハウスで暮らしている。
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