フード

僕が好きなこの店の、この一杯。/平松洋子

2022年8月19日

シティボーイ、はじめて1人でバーに行く。


photo: Kazuharu Igarashi
illustration: Yo Ueda
text: Yoko Hiramatsu
edit: Rio Hirai
2022年9月 905号初出

素敵な感性をもつ人のお口に合うお酒とは。じっくり語っていただこう。

平松洋子

平松洋子
ひらまつ・ようこ|エッセイスト。世界各地を取材し、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。初の自伝的エッセイ集『父のビスコ』(小学館)で第73回読売文学賞を受賞。

『バー ウッディ』の雪国

バーウッディ
グラスの縁にはミキサーにかけて粉雪のように細かくした上白糖、中にはミント漬けのチェリーが。カクテルピンを置くための箸置きを出してくれて、取材時はジミー大西さんの作品だった。¥1,430

山形に思いを馳せ、雪国に触れる。

 3年ほど前のことだ。山形県酒田の『ケルン』店主、伝説のバーテンダー・井山計一さんを追ったドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』を観て、そのあと、吉祥寺のバー『BAR WOODY』に寄った。1959年、井山さんが考案した「雪国」は、世界中でお馴染みのスタンダード・カクテルだ。いつか酒田で「雪国」を、と願ってきたが、夢を果たせないまま映画館に足を運び、90代の井山さんがシェイカーを振る姿に心を奪われた。あの夜、『BAR WOODY』の扉を押したのは、映画の感動のまま、カクテルの名手でもある店主・田中雅博さんの「雪国」を味わいたいと思ったからだった。作り方は同じでも、カクテルはバーテンダー自身を雄弁に物語る。それまでいくつかのバーで「雪国」に出合っていたけれど、『BAR WOODY』の「雪国」には、ひんやりとした冬の夜に点る灯を確かに思わせる魅力があった。カクテルとは、まさに記憶と物語の装置である。

インフォメーション

BAR WOODY

◯東京都武蔵野市吉祥寺本町1-10-8 山崎ビル3F ☎0422·22·0860 15:00〜23:00 不定休