TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#2】他人について – バイト先の他人 –

2022.07.20(Wed)

photo: カスカベキタロウ

いわゆる人見知りの私ですが、お酒が入ればたちまちその性格は消え、明るく話せる人になってしまう。コンビニ、パン屋、ジャズバー、葬式場の花屋、ライブハウス、居酒屋などのアルバイトをしてきたけれど、お酒がないところで続かないのはなぜだろうか。お酒は心強い友達だな。

一番長く続いているのは新宿ゴールデン街の『曜日替わりママ』のバイトで、今年で8年目になる。毎週火曜日の夜7時から深夜まで、一人でお店のカウンターの中に立っている。最初のころはとても緊張していて楽しめず、二年ほど経ったところでお店の古くからの常連から「やっと笑うようになったね」と言われた。週に一日だけ一人でバーをやるというのは、慣れてくると本当に気楽なものだ。自由にやらせてもらえて、苦手な人はほぼこない。色んな人が酒を飲んだり飲まなかったりしながら適当な話をする。

YouTubeで私の音楽を知り、Twitterをみてお店にも通ってくれるようになったKさんは、緊縛の写真を撮っていて同人誌を作っているという。先日、一日限りの緊縛写真展を店内でやってもらった。友人に連れられたまに飲みに来ていたNくんは、私の友人とお店で知り合い初めて彼女ができ、昨年ふたりは結婚した。大学時代文化祭でライブをしてもらったミュージシャンのMさんとばったり会えた時はとても嬉しそうだった。音楽仲間はもちろん、地方でのライブで知り合った人も何かの用事がてら寄ってくれたり、私に仕事をくれたり応援してくれている方が飲みに来たりと、続けているとだんだんと忙しい夜も増えてきて大変有り難い。今では毎週火曜日が自分の気晴らしにもなっている。

もうひとつ、小学校の学童クラブのアルバイトにも少しだけ行っている。こちらも作詞やライブMCなどのネタ作りのため、と思って続けている。子供と一緒に遊んだり、ケンカや危ないことをしていたら止めに入ったりと、主に観察している。「松井さんは子供が好きそうじゃないところが良い」ということで採用された。社会に出れば、色んな人がいるからということらしい。

一緒に働いている人たちは、教育の勉強をしている人や塾や保育園で働いていた人、子育て経験者がほとんどで、私のような素人は少ない。皆、子供にも大人に対しても丁寧に接していてとても勉強になる。突発的に話すと吃ってしまったり、全く違う単語を発してしまったりする私は、子供のケンカをまとめるのにも時間がかかる。すると、上級生の子がやってきて上手く収めたりしてくれる。そういった他人の姿をみていたら、大事なことを伝えるときの技みたいなものを知って、少しづつだけれど付き合い方がわかってきた。これは普段の生活にも役に立っている。

つまらないといって駄々をこねている子供も、バーで弱気になり愚痴っぽくなっている大人も、本質的にはあまり変わらない気がした。いいところや可愛らしいところをみつけたらそのまま伝えてみる。それで喜んでもらえると自分も嬉しい。

体も心もどんどん成長していく他人。大人は逆だろうか。関わった人たちが、私のようなやつでも生きていけるんだ、と前向きに感じてくれたらいい。

プロフィール

松井文

まつい・あや|1989年、神奈川県生まれ。何げない情景から、人と人との関係性を鮮やかに描き出すシンガーソングライター。大胆なのに繊細、頑固かと思えば軽やかで、そっけないのに愛が深い。嘘の言えないその歌で、聴く人に確かな足跡を残す。平成元年、横浜生まれ。2012年、1stアルバム『あこがれ』をリリース。その後、折坂悠太、夜久一とともにレーベル&ユニット「のろしレコード」を立ち上げ話題に。初めての7inchシングル『NOT MY DAY』をきっかけに、2022年からバンド「松井文と他人」を本格始動した。

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